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第1章 爺さんの店は何屋さん? (その22)

その隣は元は本屋だった店である。

今は、その店が閉まっていて、表はシャッターが下りている。


(う、う~ん・・・。)

おっさん、その店に入るかどうかを迷う。


昔は、この商店街から程近い住宅街への配達までこなす結構繁盛した本屋だったが、昨今の活字離れ、読書離れもあって、もう3年ほど前に店を畳んだのだ。

だが、店は閉めたものの、その奥と2階の住居部分に人が住んでいる。

70代と60代の姉妹である。

しかも、律儀なことに、今でも商店会の会員でいてくれている。

「お世話になっているのですから・・・」というのが姉妹の主張である。


(会員なんだから、これを受け取る権利はあるよなぁ~・・・。)

おっさんは、そう考えるのだ。

だが、店はシャッターが下りている。他に出入り口はない。

だからと言ってそのシャッターを「ドンドン」と叩くことが良いのかどうか、些か気が引ける部分もある。



「ああ、こんにちわ。」

背後から声が掛かった。で、おっさん振り返る。


「ああ、浅田さん・・・、丁度良かった・・・。」

おっさん、笑顔になる。

そう、声を掛けてきたのは、この店に住んでいる姉妹の妹さんの方だった。

どうやら、買い物から戻ってきたところだったようだ。


「何かご用事でした?」

「ええ、新しい店が出来るんで、その引越し蕎麦をお渡しに・・・。」

「あら、そうなんです? でも、今時引越し蕎麦とは珍しい・・・。」

「そ、そうですねぇ・・・。で、これがそうなんですが・・・。」

おっさん、そう言って、例のポチ袋を手渡す。


「蕎麦券が2枚入ってますので・・・。」

「まぁ、それはご丁寧に・・・、姉と一緒に頂きますわ。

あ、あれ!?」

ポチ袋に書かれた名前を見た妹さんが言う。


「ん?」

「“がきだな”さんって、町村さんのビルに来られる?」

「ええっ! ご、ご存知なんですか?」


「う、う~ん・・・、実は・・・。

ま、小池さん、こんなところではなんですから、中に入ってくださいな。」

60代の妹さんは、そう言って店のシャッターを上げようとする。


「あああ・・・、私がやりますから・・・。」

おっさん、慌てて横から手を差し伸べる。


で、ふたりはシャッターの下を潜るようにして中へと入った。


「実はですね・・・、もう半月ぐらい前だったと思うんですが、その町村さんからお電話を頂戴してましてね。」

「ええっ! 町村さんから?」

「ええ・・・、近々、町村さんのビルに新たなお店が入られることになったそうで・・・。

その店主さんが、できれば、ここの店舗を貸してもらえないかと言っておられるって・・・。」

「ええっ! そ、それって、どういうことです?」

おっさん、何がなんだか分からない。


「この店舗部分だけを、昼間、貸してもらえないかって・・・。」

「そ、それで?」

「普通ならば直ちにお断りをするんですが、何しろ、町村さんからのお話でしたので、姉と相談して、考えさせていただきますって・・・。」

「オッケーされたんで?」


「い、いえ、まだそこまでは・・・。また、日を改めて、町村さんがその店主さんをご紹介くださるってことになっておりまして・・・。」

「ほ、ほう・・・、そ、そうなんですか・・・。」


「で、でも、そのお店、町村さんのビルに入られるんでしょう?

それなのに、どうして、私どもの店舗を借りたいと仰るのか・・・。

その辺が、何とも・・・。」

「な、なるほど・・・、そ、それもそうですねぇ・・・。」

おっさんも、それに答えられるだけの情報は持っていない。

ただ、ここにも、あの“がきだな”の角田という爺さんの影が見え隠れしていることに驚くだけである。



(つづく)




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