第1章 爺さんの店は何屋さん? (その20)
(こ、こんな調子じゃあ・・・。)
おっさん、時計を見てそう思った。
今の店で3軒目。なのに、10分以上も掛かっている。
この調子では、全70軒を今日中に回るのはとても無理だ。
やはり、単純な周知ビラやチラシを配るのではないことがその原因なのだろう。
「これ、読んどいて!」の一言で終わらないからだ。
「今日明日中に配っておいて欲しい」と言うのが会長の指示である。
だから、何が何でも今日中に配らなくても叱責を受けることはないのだが、小池のおっさんすれば、新たな茶店が出来るPRをさせられているようで、何とも心穏やかではないのだ。
だからこそ、そうした厄介な仕事は、できれば今日中に終えてしまいと考えたのだ。
「ま、仕方ないか・・・、これも商店会の仕事だと言われれば・・・。」
おっさんは、そう口にすることで自分を納得させようとする。
またその隣の洋服屋に入る。
「こんちわ。商店会の小池です!」
店に誰もいないから、奥に向かってそう声を掛ける。
「・・・・・・。」
耳を澄ませてみるのだが、どこからも返事がない。
「ん? いないのかな?」
とは言え、店は開いている状態である。
(んんん! ま、まさか・・・。)
おっさん、不吉な予感に襲われる。
この店は、老夫婦ふたりでやっている。しかも、確か、ともに70代後半だ。
何かがあったのかも知れん!
「増田さん! 入らせてもらうよ!」
おっさん、靴を脱いで、店の奥の和室に上がりこむ。
いつもは、そこに老夫婦が座っていたからだ。
だが、当然のようにだが、そこには誰の姿も無かった。
ただ、部屋の明かりがついていることから、完全に留守にしているようでもない。
「増田さ~ん!!!」
一段と声を大きくして呼んでみる。
「あああ・・・。」
襖を隔てた隣の部屋から、そんな声がした。
「ん! 増田さん、小池です。ここ、開けても良いですか?」
「ああ・・・、は、はい・・・。」
婆さんの声がした。
「じゃあ、失礼しますよ。」
小池のおっさんは、そう言ってから思い切ってその襖を少しだけ開ける。
まずは、中の様子を確かめなくってはと思ったからだ。
「だ、大丈夫ですか?!」
おっさん、そう言って襖をさらに開く。
布団が敷いてあって、爺さんがそこに寝ており、その横に婆さんが普段着のままで横たわっていたからだ。
「ああ・・・、す、済みませんねぇ・・・、つい、ウトウトしちまって・・・。」
婆さんがそう言い訳をしてくる。
どうやら、爺さんの看護をしていて、そのままそこで眠ってしまったということのようだった。
爺さんの額には、折り畳んだタオルが乗せられていた。
「お爺さん、具合がお悪いんですか?」
おっさんは、その状況からそう判断をする。
「どうやら、風邪みたいで・・・。」
「お医者さんには?」
「ま、まだ・・・、ですけど・・・。」
「そ、そうですか・・・。熱は?」
「7度とちょっとぐらいかと・・・。」
婆さん、ようやく身体を起こしたかと思うと、その手を爺さんの額に持っていく。
「い、今は、大丈夫のようです。お薬を飲ませましたから・・・。」
「そ、そうですか・・・。だったら、良いんですが・・・。」
「何か、御用でしたか?」
「う、う~ん・・・。」
小池のおっさん、今日は何も言わないで、明日また来ようと思った。
こんな状態の時に話すことでもない。
(つづく)




