第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その150)
「それでって?」
父親は惚けた質問を投げてくる。そのくせ、口元には笑みが浮いている。
「だ、だから・・・、そ、それって、いつの話なの?」
逆撫でされたように孝が改めて問う。
「う~ん・・・、あれは、確か沙希が小学校6年生のときだった。」
「ええっ! しょ、小学生の時?」
「ああ・・・、女の子の場合は、そうしたことに意識が向くのは早いからな。言うなれば、早熟なんだ。」
「そ、早熟って・・・。」
孝は、如何にも遅れていると言われたような気がする。
「子供のときってのは、どうしたって女子のほうが成長が早いんだ。だから、勉強でも何でも、女子のほうが優位に立つ。」
「・・・・・・。」
言葉は挟めないものの、孝にも「そうだな」と思える経験があった。
小学生のときは、腕力以外は女子に勝てなかった。何より、口では完璧なまでに打ち負かされていた。
「それが逆転するのが13歳から15歳ぐらい。つまりは、中学時代だ。所謂思春期って奴だな。
ま、沙希の場合は、それよりも少し早かったようだが・・・。」
「ええっっ! は、早かったって?」
孝は意味が分からない。
「ほら、さっきも言ってたろ? 彼氏がどうだとか、キスがどうだとか・・・。」
「き、聞いてたの?」
「あははは・・・。あれだけ大きな声で言い合えば、ドア1枚挟んだだけだからな、当然耳に入ってくる。」
「あれって・・・、本当のことなのかなぁ~。」
孝は、先ほど沙希とのふざけたような会話を思い出している。
「ああ・・・、事実なんだろう。沙希に、今で言う“彼氏”って存在がいるのは・・・。」
「ええっ! ほ、本当なの?」
「ああ。」
父親は事も無げにそう答えてくる。
「お、お父さん、それで良いの? 良いって思ってるの?」
思わず孝はそう問い返す。まるで嫉妬しているかのようにだ。
「う~ん・・・、仕方がないことだろう。」
「し、仕方がないって・・・、そ、それだけ?」
「まぁ、一種の流行り病のようなものだしな・・・。親の立場で言えば、深刻な状態、つまりは重病にならないうちに治ってくれればって思うだけだ。」
「・・・・・・。」
孝には次に吐き出せる言葉がなかった。
(つづく)