第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その149)
「あはは・・・、孝が不満に思うのは分かる。お父さんも、その話が出たときはそう思ったものな。」
父親は、孝の納得出来なさそうな顔をみてそう言ってくる。
「そ、そう思ったって・・・、どう思ったの?」
孝は反論する。まさか当時の父親と同じ考えだとは思えなかったからだ。
「お爺ちゃんは、今も言ったとおり『結婚ってのは家にお嫁さんを迎えることなんだ』っていう主張だった。」
「・・・・・・。」
「当時のお父さんは『それは違う』って思ったんだ。結婚ってのは、やはり当人同士が愛し合うって事が第一で、家がどうこうってのは違うってな。」
「お爺ちゃんにそう言ったの?」
「い、いや・・・、言いたかったんだが、言えなかったな。」
「そ、そうなんだ・・・。」
「お父さんも戦後の教育を受けてきていたからな。そうした点は、やはりお爺ちゃんの言葉と言えども素直には従えなかったんだ。」
「で、でも、言えなかったんでしょう?」
「ああ・・・、そのときはな。」
「ん? じゃあ、後になって言えたの?」
「どう思う?」
「ど、どう思うかって言われても・・・。」
「結局は言えなかった。いや、言えなかったというのではなく、言う必要がなくなったって事だったのかな?」
「ん? ど、どういうこと?」
「う~ん・・・、つまりは、ある部分ではお爺ちゃんが言っていることも正しいんだって思えるようになったからかな?」
「ええっっ! そ、そうなの?」
孝は、まさか父親の口からそのような言葉が出てくるとは思っていなかった。
「お父さんが結婚を意識したのは27歳のときだった。つまりは、家の改築があってから7年後だった。」
「へ、へぇ~、そうだったんだ・・・。」
「この話、孝にするのは初めてだよな。」
「う、うん。」
「今まで聞こうとは思わなかった?」
「う~ん・・・、どうなんだろう?」
孝はそう言いつつ振り返っている。
無関心だったとは思わないが、さりとて、積極的に知りたいとも思ってはいなかったような気がする。
両親の馴れ初めを訊くことにどうしてか恥かしさを覚えていたようにも思える。
「やっぱり、男の子と女の子とでは違うんだな。」
「ん? て、ことは、沙希は訊いたってこと?」
「ああ・・・、もちろんお父さんに対してではなくお母さんになんだが・・・。」
「そ、それで?」
孝は、両親の馴れ初めより、妹沙希がそれを聞き出した場面が気になっていた。
(つづく)