第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その147)
「だ、たからって、その時、お父さんが結婚を考えていたってことじゃあないんだ。
ただ、お父さんが家業を継ぐ決心をして、そして20歳なったのを機に、お爺ちゃんがこの家もお父さんの世代にマッチするようにしようと考えてくれたんだな。
それまでの、昔ながらの農家の造りじゃあ、今時の女の子がお嫁になんか来てくれないって・・・。」
父親は、嬉しそうに言う。
「そ、そうだったんだ・・・。だから、この場所にあった囲炉裏もそのときになくしてしまったんだ・・・。」
孝は、囲炉裏がこの場所にある光景を想像しながらそう応じる。
それでいて、どこか残念な気持ちがあるのも否定できなかった。
囲炉裏の傍に座ってみたかったという思いがあった。
「お父さんも、当然に囲炉裏は残すんだろうと思ってたんだが・・・。」
「ええっ! そ、そうなの?」
「ああ・・・、お父さんのためにとは言っても、お爺ちゃん、そうした改築の詳細については一切事前の相談ってがなくって・・・。気がついたら、囲炉裏が取っ払われていたんだ。」
「・・・・・・。」
「『禁煙運動があるぐらいだ。今時の女の子は煙たいのなんて受け入れちゃあくれないだろう』って・・・。
で、囲炉裏ばかりじゃあなくって、今のキッチンの場所にあったふたつの竈も取ってしまってガスコンロに置き換えたんだ。
信じられんかもしれんが、そのとき初めてこの家にガス管を引いたんだ。」
「ええっ! そ、そうだったの? じゃ、じゃあ、それまでのお風呂は?」
「もちろん薪で沸かす五右衛門風呂だった。」
「五右衛門風呂って・・・、あの大きな釜みたいな奴?」
孝は、これまた何かの時代劇で見た風呂を想像する。
「知ってるのか?」
「うん、テレビで見たような気がするだけだけど・・・。」
「あれは沸かすのも大変なんだが、入るのにも一苦労でな・・・。」
「入るのに苦労するの?」
「ああ・・・、何しろ、孝が今言ったように大きなお釜の中に入るようなものだからな。その釜自体が熱いんだ。まともには触れんほどでな。」
「じゃ、じゃあ、どういう風にして入るの?」
「うふふふ・・・。」
「教えてよ。」
「その釜の底に合せた円形のすのこ板があってな。そいつを上から乗るようにして底に沈めながら入るんだ。それが自分で出来るようになるまでは、ひとりでは風呂にも入れんかったんだ。」
「へ、へぇ~・・・、そ、そうだったんだ・・・。」
「うちの家が改築したのはこの辺りでも遅かったほうでな。だから、お父さんと同年代の子でもその五右衛門風呂を知らない子がいたりして・・・。
でも、その改築で、一番嬉しかったのは便所だな。」
「ええっ! トイレ?」
「ああ・・・、それまでは、俗に言う汲取り式だったからな。」
「・・・・・・。」
孝には、その汲取り式のトイレってのが想像できなかった。
(つづく)