第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その144)
「へぇ~・・・、そ、そうだったんだ・・・。」
孝はそう言う。
ただ、だからと言って、父親が話した一連の物語に納得をした訳ではなかった。
もちろん、嘘だとか作り話だとは思わないが、それでもその言葉どおりに「そうだったんだ」と素直に受け取れない何かがあった。
「8人もの兄弟だと、ましてや一番上と一番下の年齢差が14歳もあると、どうしたって序列やそれに伴う世代層ってのが出来るらしい。
お父さんはひとりっ子だったから、いくら同級生だったその三男さんにそう言われても実感が沸かなかったんだが・・・。」
父親は、孝のそうした思いを無視するかのように話を続けてくる。
「そ、それは、僕も同じだよ。兄弟と言っても沙希だけなんだから・・・。」
「うん、そ、そうだろうな。
でも、その次男さんと三男さんはたった一つ違いだ。そのランドセル事件があったときは、三男さんが4年生で次男さんは5年生。だから、普通の兄弟のような関係だったって・・・。
兄弟喧嘩も激しいものだったし、その反面、遊ぶこともよく一緒だったらしい。」
「う、うん、それは分かる。」
「だからでもないんだろうが、8人兄弟の中でも、常に同盟関係にあったと言うんだ。」
「ん? 同盟関係?」
「ひとつしか離れていない男の子同士だ。で、すぐ上の兄弟が4歳離れた長男さんで、すぐ下の兄弟はふたつ離れた三女さん、つまりは女の子だった。
そうなれば、どうしたってその次男さんと三男さんのふたりには共通した価値観が生まれてくる。」
「ああ、なるほど・・・。」
「その代表的だったのが、『社長になる』っていう夢だったらしい。」
「ええっ! そ、そのふたりともが?」
「ああ・・・、そうだ。どちらが先に言い出したのかは、それぞれが『俺だ!』って譲らなかったんだが、少なくとも、その年子のふたりは同じ夢を抱くことになったことはその8人兄弟の誰もが認める公のことだったようだ。
しかも、現在では、そのふたりともが夢を叶えたってことになっている。ひとりは酒造会社の、そしてもうひとりは運送会社の社長さんだ。」
「そ、それはそれで、凄いことだよねぇ・・・。」
孝は、この部分だけは本音として言っている。
「だからなんだ。」
「ん?」
「そのふたりが共に『将来の社長』を目指していたことから、そのランドセル事件の年に、『じゃあ、この部屋を社長室だと思って頑張りなさい』ってことになって・・・。それ以降、その母屋の子供部屋のことを『社長室』って呼ぶことになったらしい。」
「へ、へぇ~、そうだったんだ・・・。でも、それって素敵なネーミングだよね。」
孝は、多少皮肉を込めてそう言った。
(つづく)