第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その142)
「長男さんに肩をぽんと叩かれた次男さん、しばらくは何も言えなかったそうだ。
それで、とうとうその場で泣き出してしまったんだ。」
父親は、まるで自分がその場に居合わせたような話し方をする。
「そ、その気持ち、分かるような気もするけど・・・。」
孝もそう応じる。まさに、そのときの次男さんの立場にたっている。
「で、長男さんが言うに、『出来ないって最初から決めちゃあ駄目だ。目が回っても、気分が悪くなっても、“ここは絶対に決めてやる!”っていう強い気持ちがあればお前にだって逆上がりや前回りぐらい出来る筈なんだ』って・・・。『奇跡は待ってても起きはしない。奇跡は自分で起こすものなんだ』って・・・。」
「せ、説得力があるよねぇ~。」
「だろ? その当時、長男さん、6年生だったんだそうだ。まさに、8人兄弟を率いる長男だけのことはあったってことなんだろうな。」
「そ、それで、次男さん、鉄棒が出来るようになったの?」
「さ、さぁ~、どうだったんだろうな?」
「ええっ! それって、聞いてないの?」
「少なくとも、次男さん、その屋上での件があってからは、体育で鉄棒の時間、それまでのように病気を理由にした『見学』ってことはしなかったそうだ。」
「えっ! じゃ、じゃあ、鉄棒の授業を受けてたんだ・・・。」
「ああ・・・、その姿勢を先生が認めてくれたって、次男さん、嬉しそうに言ってたそうだ。」
「そ、そうなんだ・・・。」
「それでなんだろうな、奇跡が起きたんだ。」
「ん? 奇跡?」
「鉄棒の実技テストのとき、逆上がりは出来なかったんだが、前回りは何とか出来たそうだ。しかも、その成功はそれ1回のみ。後にも先にもな。もちろん、それまでの練習でも、ただの1回も成功はしてなかったらしい。」
「そ、そりゃあ、凄い・・・。まさに、奇跡だよね。」
「そうした経緯を次女さんも知っていたんだな。だから、その次男さんが三男さんに算数を教える様子を見て、それで叱ったんだ。自分もそうして弱点を克服させてもらったんだろ? ってな。」
父親は、ようやくその時点へと話を戻してくる。
(つづく)