第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その141)
「なっ! まさか! って、普通は思うわな。」
父親は、孝が驚いたことに対してそう反応する。
「・・・。」
孝は答えようがない。それでも、心の内では「本当に飛んではいないんじゃないか」という疑いを抱いている。そうでなければ、こうした話にもなっていないだろう。
「そこがその長男さんの凄いところでな。」
「ほ、本当に飛んだってこと?」
「ああ・・・、だから、それを目の当たりにした次男さんはその場でへなへなと座り込んでしまったらしい。」
「どうなったのかって・・・、心配じゃなかったのかな?」
「いやいや、それどころか、死んだんじゃないかって、本気でそう思ったらしい。
自分の責任のように思えて、怖くって怖くって、もうどうしようもなかったってことらしい。もちろん、下を覗き込むことどころか、その屋上のフェンスにも近づけなかったってことだ。」
「・・・・・・。」
「そしたらな、程なくして、座り込んでいた次男さんの肩をポンと叩く人物がいたんだ。」
「えっ! もしかして・・・。」
「ああ、長男さんだったってことだ。」
「・・・・・・。」
孝は、まるで手品のショーを見せられているような気持ちになる。
「長男さんは、屋上から1階下のベランダのようなところに飛び降りてたんだ。
で、そこから階段を上って戻ってきたってことだ。」
「で、でも・・・、そのベランダに飛び降りる事だって、普通は出来ないでしょう? 怖くって・・・。」
「だから、そこがその長男さんの凄いところなんだな。高いところが平気なんだ。」
「だ、だからって・・・。一歩間違えば、死んじゃうってのに・・・。」
「長男さんは、その飛び降りを何度もしていたらしい。で、学校に見つかって、親が呼び出されたことも一度や二度じゃあなかったって・・・。」
「・・・・・・。」
「で、そうしたことが出来るのが自分の特徴なんだって自覚をしていたんだな。
だから、中学を卒業したらすぐにとび職を目指すって心に決めていたそうだ。」
「そ、それで・・・、宮大工さんに?」
「ああ・・・、そういうことだったようだな。」
「で、その次男さんは、それからどうなったの?」
孝は、その点が気に掛かる。
(つづく)