第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その138)
「へぇ~・・・、ってことは、その次男さんも、それまではそうは思ってなかったってこと?」
孝は、自分と妹沙希の関係にダブらせて捉えている。
「う~ん、その微妙なことは分からんが、少なくともそのことがあるまでは『教えてやる』っていう発想だったらしい。何しろ、自分は出来るものだからな。ちゃんと勉強さえすれば、誰にでも出来るのが算数だって思ってたらしいから・・・。」
父親は、聞いた話としての姿勢を崩さない。
「誰にでも・・・か。ま、そうじゃないのが現実なんだけど・・・。」
孝は、算数が数学になった今の自分に置き換えて、そう思う。
「ところが、実際に三男さんに教えてみると、そう簡単なことじゃあないって分かったみたいでな。」
「・・・・・・。」
「やはり、人間には得手・不得手があって・・・。」
「あ、あれって、どうしてなんだろうね。」
孝も、その点は実感する部分がある。音楽や美術、それに体育の実技。それらは、孝も苦手なほうだった。
「それは、持って生まれたものだろう。今の言葉で言えば、DNAのなせる業だ。
だから、その三男さんは、他の科目はそこそこ出来るのに、どうしても算数だけは駄目だったんだ。」
「それって、もうどうしようもないってこと?」
孝は、自分に当てはめて訊いている。
音楽・美術・体育と、孝にも苦手な科目があるが、幸いなことに、そうした科目は大学入試には必要がなかった。
昔のように内申書が重視されるのであればそうしたことも考える必要があっただろうが、今は、全国統一のセンター試験があって、その成績が何よりも物を言うからだ。
それでも、不得意なことがDNAのせいだとすれば、もうどうしようもないことだとは思いたくはなかった。
「次男さんも、実際に三男さんに教え始めて、その飲込みの悪さに改めて驚いたんだろうな。
それでもだ、結果として算数の成績が上げられなくっても、決して自分の責任じゃあないからって頭があったらしい。」
「・・・・・・。」
「それを、その次女さんが見抜いたんだろう。小さいときから母親代わりのように面倒を見てきた次男さんのことだからな。」
「・・・・・・。」
「で、その激怒って事になったらしい。」
父親は、そこで薄い笑いを見せた。
「ん?」
孝は、その意味が分からなかった。
(つづく)