第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その137)
「で、その奇妙な取り合わせの3人が、その冬休みの間、母屋の子供部屋で一緒に勉強することになった。」
父親は、またぞろ昔話の口調になる。
「そ、それで?」
孝は、まったく無関係なのに、それでもその話の先が聞きたいのだった。
不思議と言えば、不思議な感覚だった。
「そ、それでって・・・。ただ、それだけのことだ。」
「ん? ま、まさか!」
「な、何がだ?」
「い、いや、それでお終いって事じゃあないんでしょう? そこまで言うんだから・・・。」
「あははは・・・。そ、そうだな。」
「な、何かあったの?」
「い、いや・・・、別に、これってことがあったわけじゃあないんだが・・・。」
「・・・・・・。」
「冬休みって一番短いだろ? 2週間ほどだ。」
「う、うん・・・。」
「おまけに、その期間中に、クリスマスだの、大晦日だの、お正月だの・・・って行事が立て込んでいるだろ?」
「うん。」
「小学生のふたりは、いくら『集中して勉強がしたいから』とは言っても、やっぱりそうした行事は頭にあるわな?」
「う~ん、そ、そうだろうね。」
「でもな、その同じ部屋で保育の勉強をしていた次女のお姉さんは、もうそんなことは度返しだったそうで・・・。」
「ん? つ、つまりは、クリスマスもお正月もないってこと?」
「ああ、そ、そのとおりだ。クリスマスも正月も、平日とまったく変わらない生活をしたんだそうだ。時間を決めて、その時間はその子供部屋に篭もって勉強机に向かったんだそうだ。」
「・・・・・・。」
「で、それを見たふたりの小学生組が、『お正月ぐらいは・・・』って言ったんだそうだ。」
「・・・。」
「するとな、その次女のお姉さん、『あんたらに同じようにしろとは言ってないわよ! 遊びたいんだったら、好きにすれば!』って怒鳴ったんだそうだ。」
「おお、こわっ!」
「怒られたような気がしたのか、ふたりの小学生組、そのお姉さんと行動を共にするようになったんだと・・・。」
「ええっ! こ、行動を共にって・・・。」
「お姉さんが食事に行ったら同じように食卓に、食後の休憩が始まるとそれも同じように、で、また勉強を始めるとそれまた同じように・・・。
『まるで、背後霊に取り付かれたみたい』とそのお姉さんは言ってたそうだ。」
「な、何も、そこまでしなくっても・・・。」
「それを言い出したのが次男さんだったらしい。
彼は、学校でもよく勉強が出来ると言われた秀才タイプなんだが、実は、小さいときからその次女のお姉さんが面倒を見ていたんだそうだ。何しろ、6歳も離れてる弟だったからな。
だから、次男さんも、両親よりその次女さんの影響を強く受けて育ってきてたんだ。
で、何でも『自分で目標を決めて、そして自分が努力する』。それしか、自分らしく生きられる方法はないんだよって教えられていたらしい。」
「・・・・・・。」
「だから、そんな次女さんが頑張る姿を見て、『この冬休みに弟三男に算数を教え込む』っていう目標の重大さに改めて気がついたんだそうだ。」
父親は、ここまで一気に話しを押し進めてくる。
(つづく)