第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その136)
「その三男坊の子には年子のお兄ちゃんがいてな。つまりは、次男さんだ。」
父親は、その次男坊の顔も知っていたのだろう。懐かしげな顔でそう言ってくる。
「ん? 年子って、つまりは1歳だけ上ってこと? ああ・・・、その幹部会に入れなかった4番目の子だよね?」
一方の孝は、その兄弟を誰一人として知らないのだから、次々に登場されてもそれを頭の中で並べるだけで苦労するのだ。
「おう、そうだ。よく分かったな。」
「そりゃあ、順番に並べるようにして考えれば何とか・・・。」
孝は強がりを言う。
「実は、その次男さん、小学校の頃から学力優秀でな。その当時は、常にクラスの一番、いや、学年で3本の指に入るって程の秀才だったんだ。
おまけに、人望も厚くってな。学級委員はもとより、その学級委員を統括する学級委員長にも指名されていたんだ。」
「へ、へぇ~・・・、同じ兄弟でも随分と違うんだ・・・。」
「そ、そうだな。で、そのひとつ上の次男さんが、算数の勉強で苦労する三男坊を見かねてな、ついに家庭教師を申し出たんだ。」
「えっ! 家庭教師?」
「2学期が終わったら冬休みに入るだろ。するとな、上の兄弟からその三男のランドセルの話を聞かされていたらしくって、『俺がこの冬休み、付きっ切りで算数の勉強を教えてやるから』って言ってきたそうだ。
おまけにな、『この話しは二人だけの秘密ってことで、幹部会には一切言わないから』って約束をしてくれたんだそうだ。」
「わぁ~、弟思いなんだ、その次男さん・・・。じゃあ、その次男さんのお陰で3学期に成績が上がったって事なんだ。」
「むろん、本人の努力もあるんだろうが、やはりその次男さんの貢献度は大きかったんだろうな。『何度も何度も、僕が理解できるまで繰り返し同じ事を丁寧に教えてくれた』って。『自分だけじゃ、どう足掻いてもあそこまでは行けなかっただろう』って苦笑してたからな。まさに、『神様、仏様、お兄様』だったって・・・。」
「へ、へぇ~、そ、そうだったんだ・・・。」
孝には、そこまでの経験はなかった。妹沙希の勉強も見てやって欲しいと母親からは頼まれていたが、とてもそんな気にはなれなかったというのが本音だった。
「そのときだったらしい。」
「ん? な、何が?」
「その次男さんと三男坊が共同戦線を張って、『母屋の子供部屋を使わせて欲しい』って上の3兄弟、つまりは幹部会に直訴したって言うんだ。ふたりで集中して勉強がしたいからって・・・。」
「へぇ~、や、やるじゃない!? そ、それで、その母屋の子供部屋を使えたの?」」
「ああ、冬休みの間だけって約束でな。で、かつ、その幹部会メンバーのひとりである次女さんと共同で使用するって条件だったそうだ。」
「ん? じ、次女さんと? そ、それって、やりにくかったんじゃないの? まるで、監視役みたいで・・・。」
「う~ん・・・、どうだったんだろう? そのころ、その次女さん、保育士になることを目指しててな。高校を卒業したら、保育の専門学校に入ることを目標に勉強をしてたんだそうだ。」
「高校の何年生だったの?」
「確か、2年生だったかな?」
「・・・・・・。」
(てことは・・・、今の俺よりひとつ年下・・・)。
孝は、その小学生ふたりのことより、次女の話が強烈な印象として残るのを自覚していた。
(つづく)