第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その135)
孝も、今の高校に進学するとき、そして、大学を目指そうとしている現在、両親にはそれなりに相談をしたものだった。
「ここに進学をしたいと思うんだけれど・・・」とだ。
そのとき、両親、とりわけ父親は、「孝の人生なんだから、自分の信ずる道を行けばいい」と言ってくれた。
ただ、「それを勝ち取るのは孝自身なんだからな。自分で『ここに』と言った以上は、何が何でも、命を懸けてでもそこに合格するんだっていう覚悟と自覚が必要になる。そのことをきちんと理解しているのであれば、お父さんとしてはそのための支援は最大限してやる」と付け加えることを忘れなかった。
そう、今のそのお姉ちゃんと同じ言い方だった。
「そ、それで、その子、ランドセルを買ってもらえたの?」
孝は、そういう言い方で、まずは結果から訊く。
さすがに、直接的に「算数の成績、ワンランク上げられたの?」とは訊けなかったからだ。
「ああ、結局は半年ぐらい経ってからだったけれどな・・・。」
「えっ! は、半年後?」
「そうだ。本人、お姉ちゃんにそこまで言われたんじゃあ引っ込みが付かなかったようでな。結局は、その上3人の兄弟の前で『算数の成績を1ランク上げるから、ランドセルを買ってください』って宣言をしたんだ。
で、それが1学期が終わる直前だったからな、その1学期の成績が基準とされたらしいんだが、直後の2学期、頑張ってはいたんだが、それが成績に表れなくって・・・。」
「だから、そのときには買ってもらえなかった?」
「ああ・・・、その点は、兄弟間の約束だから、手厳しかったようだ。一番上のお姉ちゃんに呼び出されて、『男がやるって約束したんだから、それは守りなさい。3学期は何としてでも成績を上げるのよ」って激を飛ばされたらしい。」
「へぇ~・・・、そりゃあ、ほんと、手厳しい・・・。」
孝、口では如何にも他人事のように言ってはいるが、内心、ぎくりとするものがあったのも事実である。
そう、直近の模擬試験の結果を両親に報告できていなかった。もちろん、成績が急降下をしたからなのだが・・・。
「で、3学期は頑張ったんだろうな、成績が1ランク上がったんだ。」
「そ、そりゃあ良かった。努力の成果だよね。」
孝は、またまた表面上はそう取り繕う。
「それで、約束どおりに新たなランドセルを買ってもらえることになったんだが・・・。」
「ん?」
「実はな、ここにも、この兄弟ならではの裏話があってな。」
「ん? ど、どういうこと?」
父親は笑うようにして話し、それを孝は強張った顔で聞くことになる。
(つづく)