第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その134)
「よ、よく親を説得できたねぇ~・・・、その上の3兄弟も。それだけ、信用があったってことなんだろうけど・・・。」
孝は、その幹部会メンバーとされた上3人が下の兄弟の意向を汲んで両親を口説き落としたのだと思った。
「いやいや、そうではなくってな。」
父親は、顔の前で掌を横に振って孝の言葉を否定する。
「ん? じゃあ・・・。」
「その幹部会の裁量で決めたって言うんだ。」
「ええっ! そ、それって・・・、つまりは、その上の兄弟が買うことにしたってこと?」
「ああ・・・、その通りだ。」
「で、でも・・・。」
孝は、そう言われてもまだ現実感がなかった。
如何に上3人の兄弟だとしても、そこまでまだ自立できては・・・。
「ん! 一番上のお姉ちゃんは、そのとき、もう働いていたってこと?」
「ああ、それもあるだろう。その春から信用金庫に勤め始めていたからな。でもな、それだけじゃあなかったらしい。」
「ん? て、ことは?」
「その当時、つまりはお父さんの友達だった三男が小学校4年生だったとき、高校2年生だった二番目のお姉ちゃんも、そして中学3年生だった長男さんも、いずれもアルバイトをしていてな。その上3人が、何年か前から『子供貯金』ってのをやっていたらしい。アルバイト代の一部を貯金してたんだ。」
「えっ! じゃあ、そのお金でランドセルを買うってことになったってこと?」
「その通りだ。」
「そ、そりゃあ、凄いや・・・。で、その条件って?」
孝は、先ほど父親が言った「条件」を思い出す。
「その友達は、『条件』と言われたとき、何らかの仕事か役割を言いつけられると思ったそうだ。例えば、子供部屋の掃除当番とか・・・。
でも、言われたのはまったく違っていてな。」
「だ、だから・・・、どんな条件だったの? って。」
孝は、また苛立ち始める。
「小学生は勉強をしてそして思いっきり遊ぶのが仕事だって・・・。
で、言われた条件が、算数の成績を1ランク上げるってことだったんだ。」
「えっ! そ、そんなことを条件にされたの?」
「ああ・・・、で、その子はランドセルを諦めようかと思ったって言うんだ。
何しろ、その子、算数だけが苦手でな。他の科目はそこそこの成績なのに、算数だけはからっきし駄目で・・・。数字を見ただけで全身に鳥肌が立つって言ってたぐらいだったんだ。」
「だ、だからって・・・、で、諦めたの?」
「そこで、一番上のお姉ちゃんが言ったそうだ。そんなことも出来ないのであれば、もう2度とこうした要求は受け付けない。男の子だったら、一旦、『これが欲しい!』って思ったんだったら、命を懸けてでも手に入れるって覚悟が必要だって。」
「・・・・・・。」
孝は、内心、「それって、親が言うことと同じじゃないか」と思った。
(つづく)