第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その133)
「確かに、子供を育てていくってことにはお金が必要だ。
しかも、それが8人もってことになれば、親にそれ相当な稼ぎがないとな・・・。」
父親はそう言う。
それは、その友達との話からではなく、親になった今の立場や経験を踏まえての言葉なのだろう。如何にも実感がこもっている。
「で、でも、そんなことは分かっていて子供を産んだんでしょう?」
父親が親としての立場で言うから、孝は子供の立場としてそう反論する。
これだけは、絶対に正論だとの確信があってのことだ。
「う、うん・・・、その筈、いや、そうでなければいけないって、お父さん自身もそう思う。」
「で、でも、その大村さんちじゃあ、そうではなかったってこと?」
「う~ん・・・、その両親がどう考えていたのかは分からんが、結果として、やはり経済的には相当に苦しかったようだ。農業だけでは食べていけなかったようで、先祖から受け継いだ農地を切り売りして何とか子供を養っていたらしいからな。」
「そ、それが分かっていたのに、そんなに子供を産んだってこと?
そ、それって、やっぱり無責任なんじゃないの? 親のエゴだって言われても仕方がないんじゃないかって思う。」
「う、う~ん・・・、子供の立場から見れば、そうなんだろうな。事実、お父さんの友達のその子もそう言ってたからな。小学生の頃は・・・。」
「ん? ってことは、大人になったら、考え方が変わったってこと?」
孝は、父親の言い方に多少ならずも抵抗を覚えた。
「小学生の頃はそう思っていたが、その成人式の時にはそうじゃあなかった」と聞こえたからだ。
「ま、まぁな・・・。」
父親は孝の指摘を否定しなかった。それどころか、嬉しそうにする。
孝に自分が言いたかったことが伝わったと思ったのだろう。
「で、その子、ランドセルを新しいものに買い替えて欲しいっていう要求をしたんだそうだ。」
孝との会話に手ごたえを感じたのか、父親はそう言って話を少し戻す。
「ん? 言えなかったんじゃないの?」
孝はまたまたそう反論する。さっきの話と違うと思うからだ。
「言えなかったのは親に対してなんだが、その子は例の幹部会に直訴したんだそうだ。」
「ああ・・・、幹部会ねぇ~・・・。で、でも、幾ら幹部会でも、その要求は聞き入れられなかったんじゃないの?」
孝は、「幹部会と言ってもあくまでも子供なんだから・・・」と思ったのだ。
「その子も、内心では『言っても難しいだろうな』って思ってたそうだ。それでも、せめて自分の思いだけは兄弟に分かって欲しいって気持ちだったらしい。
ところがだ・・・。」
「ん? ま、まさか?」
「そう、そのまさかの結論が出されたって言うんだ。」
「ど、どうなったの?」
「新しいランドセルを買ってもらえることになったんだ。」
「うっ、うっそう~!」
「嘘じゃあない。ただし、条件が付いていたんだが・・・。」
「・・・・・・。」
孝は、条件が付こうが付くまいが、上の兄弟3人がそんなことを決定できたことに驚いた。
(つづく)