表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/187

第1章 爺さんの店は何屋さん? (その16)

「あああ・・・、あの正栄ビルの角の店か・・・。

ん? なになに、“都会の茶店ちゃみせです”だと?

んんん! “お金は頂戴いたしません”?」

木村は、ポチ袋に入っていた紙を拡げるようにして読み上げる。


「な、何だ? それ?」

小池のおっさんが思わず訊く。

ポチ袋にそんな紙が入っているとは思っていなかった。


「“ご挨拶”だそうだ。」

木村は、拡げた紙を小池のおっさんに突き出すようにする。

四つ折になった和紙である。



『引越しのご挨拶


この度、1丁目の正栄ビルの角に引っ越してまいりました、都会の茶店ちゃみせ「がきだな」でございます。

趣味でやっております茶店です。粗茶とお菓子をご用意いたしております。

お代は頂戴いたしませんので、是非、お気軽にお立ち寄りくださりませ。


なお、同所での開店は来週月曜日からで、同封の蕎麦券は引越し蕎麦の代わりでございます。

新参者でございますが、何卒、よろしくお願い申し上げます。


敬具  茶店 がきだな 店主』



「本当に金要らんのか?」

木村が訊いてくる。


「そ、そのようだなぁ~。」

小池のおっさん、そう答えるしかない。

この紙を見て、初めて知ったことである。

「金儲けをするつもりは無いらしい」との言葉が蘇ってくる。


「金持ちの道楽なのか?」

「さ、さあ~、どうなんだろう?」

「おいおい、そうしたことも分かっていて、これを配ってるんじゃないのか?」

木村は怒ったように言う。


「うっ、う~ん・・・、会長の指示だしな・・・。」

小池のおっさんはそう逃げる。


「ま、いいや、タダだと言われちゃあ、覗いてみるしかないだろう。そのついでにこの券で昼飯食っても良いし・・・。」

「そ、そうだなぁ~・・・。」

小池のおっさんは、未だにその茶店がイメージできないでいる。


「どんな人なんだい? ここの店主って。」

木村は、同級生の誼からか、そこまで踏み込んで訊いてくる。


「う~ん、爺さんだよ。65歳と本人は言ってたが・・・。」

「ほう、それで?」

「それでって?」

「趣味で店をやるってんだから、一風変わった人物じゃあないのか?

今時、そんな気楽な人生を送れるなんてさ、余程のワルか、そうでなければ余程の金持ちか、そのどちらかだろう?」

「う~ん・・・、何とも言えんなぁ~。ただ、悪い人物のようには見えない。

それぐらいしか言いようが無い。二言三言話しただけだし・・・。」

小池のおっさんは、敢えて町村氏のことには触れなかった。

「そ、そうか・・・。」


ふたりの会話はそこで終わる。

店の奥から木村の嫁さんの呼ぶ声が聞こえたからだ。


「じゃあな・・・。」

互いにそう言って、小池のおっさんも店を出る。



(つづく)





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ