第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その132)
「うっ、う~ん・・・、と、突然にそんなこと訊かれても・・・。」
孝は父親の質問に対する答えを渋った。いや、そんな仮定の話を突然持ち出されても、思考が付いて行かないってのが本音だったろうか。
「そうだろうな、何より、実感がまったくないだろうからな。」
父親も、自分でそう訊いておきながら、孝が答えをしなかったことに理解を示す。
「当時のお父さんも、今の孝と同じでな。」
「ん? どういうこと?」
「その友達と話していても、まるでどこかの昔話を聞いているような感覚しかなくってな。
何しろ、お父さんはひとりっ子だったんだ。だから、少なくとも沙希という妹がいる今の孝より現実がなかったんだ。
8人兄弟っていうその人数よりも、兄弟がいるっていうことへの羨望が強かったんだろうな。」
「な、なるほど・・・。で、でも、兄弟がいてもいなくっても、そんなに変わらないもんじゃないの?
ぼ、僕だって、沙希がいるからって、そんなに意識もしないし、何らかの影響があったとも思ってないし・・・。
これからも、沙希がいるからって、僕の人生に大きな影響があるとは思えないよ。」
「ん? そ、そうか、そう思ってるのか・・・。」
父親は、孝の言い分に、少し首を傾げるようにした。
「そりゃあさ、その大村さんちのように8人も兄弟がいたら何らかの影響はあるんだろうけれど・・・。」
孝も、父親の変化には気がついていた。だからこそ、そうフォローを入れる。
とは言っても、当然のことながら実感はまったく伴わない。
「その子は、兄弟が多いことについては異論はなかったそうだ。」
しばらく黙った父親だったが、また意を決したかのように話し始める。
「ん? で、でも、『親の身勝手だ』って思ってたんでしょう?}
孝は、そう反論する。さっきの話と違うのではないかとだ。
「い、いや、兄弟が多いのは嬉しかったそうだ。何より、心強かったって・・・。
でも、その半面で、他の家の子供と比べると、どうしても経済的な面が劣っているという現実も思い知って、それは何より嫌だったって・・・。」
「ああ・・・、そ、そういうこと?」
「小学生の頃、その子が使っていたランドセル、もう相当に年季が入っているものだった。あちこちに修復しがたい傷があったりしてな。でも、それを新しいものに買い替えてほしいとは言えなかったって・・・。
で、お父さんに向かって、『お前んちは良いよな。ひとりっ子だし、何でも新品ばかりで』って・・・。」
「・・・・・・。」
「で、何より悔しい思いをしたのは、給食費の支払が、毎月必ず遅れるって事だったそうだ。」
「ええっ! ・・・。」
孝は、まるであってはならないことがそこに起きていたように思えた。
(つづく)