第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その131)
「そ、それって、死産ってこと?」
孝は、思わず記憶にある単語を口にした。もちろん、その意味は不鮮明のままでだ。
「母親のお腹の中で赤ん坊が死んだ」と聞かされて思い浮かんだ唯一の単語である。
「い、いや、そうじゃあなかったらしい。死産ってのは受精後4ヶ月を越えて死亡した場合だ。その子の場合は、ぎりぎりそれ以前だったそうだ。で、流産ってことになったんだって・・・。」
「りゅ、流産か・・・。」
孝は、いずれにしてもよく分からない世界だと思う。如何にも大人の領域だと。
「ま、そういうことで、長男さんと次男さんの間が4年ってことになったんだ。
で、実は、彼らのお母さんは、それでもう子供は作らないでおこう。もう3人も子供がいるんだから、それで十分。そう思ったんだそうだ。」
「ん? で、でも・・・。」
「ああ、そうだな。結果としては、さらに子供が出来たんだが・・・。」
「そ、それって、どうして?」
「ん?」
「だって、そのお母さんは、もう子供は作らないでおこうって決めたんでしょう?」
「ああ・・・。」
「それなのに、また子供が出来たんでしょう? しかも、そこから5人も・・・。」
孝は、人数を間違わないようにと、指を折ってそう言う。
「そこは夫婦の話合いの結果なんだろう。」
「ん? つ、つまりは、そこのお父さんがまだ子供が欲しいって言ったってこと?」
「う~ん・・・、果たしてそう言ったのかどうかまではその当事者でなければ分かり得んことなんだろうが・・・。
それでも、そこまでさらに兄弟を増やしたってのは、少なくとも父親・母親の双方にその意思があったってことなんだろうな。
まさか、コウノトリが運んできましたってことじゃあ片付けられんからな。」
「・・・・・・。」
孝は、一瞬だが噴出しそうになってしまう。まさか父親がコウノトリの話を持ち出してくるとは思ってもいなかったからだ。
「で、あるとき、その父親がその三男の子に言ったそうだ。」
「ん? な、なんて?」
「兄弟が多いってのは素晴らしいことなんだぞって。」
「そ、それで?」
「ん? それでって?」
「そのお父さんのお友達は、何て答えたの? どう思ったの?」
「『馬鹿野郎! それは親の勝手な言い分だ』って・・・。」
「えっ! そ、そう言ったの?」
「い、いや、そう思ったんだって言ってた。」
「・・・・・・。」
「もし、孝がその子の立場だったら、一体どう思うんだろうな?」
父親は、興味深げに孝の顔を覗き込んでくる。
(つづく)