第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その130)
「彼が言うに、最初は普通に『母屋の子供部屋』って呼んでいたらしい。本来の子供部屋が元の農機具小屋だった、つまりは離れにあったからって・・・。
ところが、やはりどうも長ったらしいってことになって・・・。」
父親は、その成人式の日の光景を思い出すのか、時折口元に笑顔を見せながら話してくる。
「ん? そ、それは分かるけど・・・。だからって、いきなり『社長室』はないんじゃない?」
孝は、父親が意識して話をゆっくりとしようとしていることに気がついていた。
それでも、今度は意識してそれに付き合おうとする気持ちが沸いていたから、焦ることはしなかった。
もう、今日は勉強しないでおこうと腹を括っていた。
「う、うん・・・、そ、そうだよな。で、幹部会が開かれたって言うんだ。」
「ん? カンブ会って、あの幹部会?」
「ああ・・・、上から3人の兄弟が幹部だったらしい。」
「その3人って?」
「お父さんが初めてその子の家に行ったときにケーキとジュースを出してくれた一番上のお姉さん、そして、2つ下の次女さん、それにさらに2つ下の長男。
この3人が、8人兄弟をいろんな意味で取りまとめていたらしい。
で、何か問題があると、この3人が相談をして決めていたって言うんだ。
で、その幹部会っていう呼び名は、その3人以外の子たちがそう呼んでいたってことだ。それだけ、その場で決められたことは絶対的だったようだ。」
「へ、へぇ~・・・、じゃあ、4番目の子は?」
孝は、その点が納得できなかった。
8人も兄弟がおれば、誰かが全体を取り仕切ることになるってのは、兄弟が少ない孝にも一定の想像は出来た。学校のクラスと同じで、やはり誰かがまとめなければ収拾がつかないからだ。
それでもだ。それを取り仕切るのが上から3人だとすれば、当然に4番目の子は不満があるだろう。どうして俺は幹部に入れてくれないのだって思うに違いない。
そう思っての質問だった。
「そこは、不思議なものでな。」
父親は、孝の疑問を肯定的に捉えたのか、にっこり笑ってそう言ってくる。
「ん?」
「その長男さんの下が次男さんだったんだが、このふたりの歳の差が4つもあったんだ。
つまりは、その4番目の子に当たる次男さんから言えば、すぐ上の兄弟が4つも年上だったってことだ。」
「へぇ~・・・、そんなに離れてたの?」
孝には意外に思えた。8人も兄弟がおれば、普通はもっと歳の差が詰まっているように思えたからだ。例えば、年子とかだ。
「ま、実際には、その間にも兄弟が生まれる筈だったようだがな。」
「ん? そ、それって、どういうこと?」
「生まれる予定だった子が、お腹の中で死んでしまったってことがあったらしい。」
「ええっっ! ・・・・・・。」
孝は、それに続く言葉が出なかった。
(つづく)