第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その129)
「で、あれは確か成人式のときだったんだが・・・。その三男である友達と初めて酒を飲んでな。」
父親は嬉しそうににっこりと笑って言う。
「成人式で?」
孝が思わずそう問い返す。父親に飲酒のイメージがなかったからだ。
家でも、正月とか祖父の誕生日とか、そうしたイベントがない限りは酒を口にしない父親だった。
飲めないのではないかという認識が孝にはあったのだ。
「ああ、お互い、正々堂々と酒が飲めるようになったんだなって・・・。」
「ん? 正々堂々って・・・、つまりは、それまでにも飲んでたってこと?」
「あ、いや、そういう意味ではないんだが・・・。」
「・・・・・・。」
孝は、「余計なことを言ったかな?」とちょっぴり反省をする。
父親にも、踏み込まれたくはない青春時代の思い出ってのもあるだろう。
「お父さんは飲まないんだが・・・、と、言うより、余り好きではないんだ。
それに引き換え、その友達は酒豪でな。」
「そ、その20歳の頃から?」
「ああ・・・、もう、近所でも有名だった。その部分については、父親の遺伝子を最も強く受け継いだ子供だって・・・。」
「へぇ~・・・、そうだったんだ・・・。」
「で、その成人式の後、居酒屋に誘われたんだ。お父さんとしては余り行きたくはなかったんだが、何年か振りで話せる機会だったものだから、どうしても断れなくって・・・。」
「行ったんだ、飲みに。」
「い、いや、だから、お父さんとしては飲みに行ったんじゃなくって、その友達と互いの近況を話しに行ったってことだ。」
「・・・・・・。」
孝も、今度は逆襲しなかった。
「で、そこで、その兄弟の凄さを改めて知らされたんだ。」
「ん? ど、どういうこと?」
「まずは、あの『社長室』の話が出てな。もちろん、それはお父さんから切り出したことなんだが・・・。」
「ん? 社長室? ああ・・・、その家の子供部屋?」
「うん・・・、何しろ、その子の家に行ったのは、それが最初で最後だったからな。お父さんとしては、そこからしか話に入れなかったんだ。」
「そ、それで?」
「その伝統は、今でもちゃんと続いてるって、友達は笑うんだ。あれから、もう10年が経とうとしているのにだ。
で、お父さんが訊いたんだ。どうして、あの部屋を『社長室』って呼ぶようになったのかってな。」
「ど、どうしてだったの?」
孝も、その点は気になっていた。
(つづく)