第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その128)
「じゃ、じゃあ・・・。」
孝は、自分の舌が縺れるのを感じた。
「ん?」
父親は、孝が何を言うのか、首を傾げるようにして待ち受ける。
「そ、その子供たちのお父さんとお母さんは?」
孝は、どうしてなのか、そうした沢山の子供を生み育てた両親の現状が知りたくなる。
「父親は、確か、もう10年以上も前に病死したって聞いたなぁ~。ま、もともと、お酒が好きで、あまり健康的な生活をしていなかったってこともあったんだろうが・・・。」
「お母さんは?」
「うん、今もご健在らしい。今話した三男の家族と一緒に住んでるそうだ。」
「じゃ、じゃあ・・・、今は幸せなんだ・・・。」
「う~ん・・・、そ、それは、どうなのかは分からんが・・・。」
「ん? そうじゃないの?」
「それこそ、幸せかどうかってのは、本人にしか分からんものだろ?」
「そ、そう言われれば、そうだけれど・・・。」
そうは言ったものの、孝は、それだけの子供を育てた母親が、少なくとも安定した生活をしているらしいと知って安堵する気持ちがあった。
自分でも、どうしてそのように思うのかは分からなかったが・・・。
「人間には、それぞれの価値観・幸福感がある。な、そう思うだろ?」
父親は、一区切りついたと思ったのか、そう切り出してくる。
「う~ん・・・、そうなんだろうけど?」
孝は、この後、父親がどんなことを言うのかが想像できなかった。
「同じ家で、同じ両親から生まれ、同じ環境の中で育てられた8人の子供たちだ。
それでも、その8人は誰ひとりとして同じような道を選択してはいない。
それぞれが、それぞれの道を自らの判断で探し出して、そして、それぞれに努力をして現在の生活や立場を獲得しているんだ。
ま、ひとりは不慮の事故で死んでしまってるんだが、その時でも、その兄弟たち、『あいつはあいつの人生を全うしたんだ』って誇らしげに言ってたのが印象的だった・・・。」
「不慮の事故って、レーサーになった人?」
「うん。その子は、小さいときからスピードに強い関心があってな・・・。子供の頃から『俺は絶対にF1のレーサーになるんだ』って目を輝かせていたんだ。
で、レーサーになるためには相当の資金が要るんだが、そのかなりの部分を、その上の兄弟たちが皆で出し合ってやっていたって言うんだ・・・。」
「へ、へぇ~・・・、そ、そうなんだ・・・。」
孝には、そうした兄弟間で、何かを支援しあうっていう感覚はまったくなかった。
(つづく)