第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その127)
「ん? あまり良くないことがあったってこと?」
孝はきっとそうに違いないと受け止めていた。
父親の歯切れが悪かったかたらだ。
「い、いや・・・、そういうことじゃあないんだが・・・。」
父親は、どうやら「どう話せばいいのか」を考えていたらしい。
「ま、良いけど・・・。」
孝は、そう言い切る。
孝からすればまったく無縁な大家族のことだ。極端なことを言えば、その大家族がどうなっていようとも関係がない。
ここでこのままその話を打ち切られても、何ら問題はない。
「それだけの子供がいても、誰一人として家業の農業を継ぐって子がいなかったんだな。」
父親は、孝がそう投げやりな言葉を言ったからでもないのだろうが、ぽつりぽつりと話し始める。
「・・・・・・。」
孝、これには一切応えない。自分にも同じような気持ちが心の奥底にあるからだ。
家業の果樹園を継ぐ気持ちはない。
「その友達になった男の子も、今じゃあ、運送会社をやってるしな。」
「えっ! やってるって・・・。つまりは、社長さんってこと?」
「ああ、そうだ。毎年、年賀状をくれるし、ほら、今、うちもネット通販で果物を全国に売ってるだろ? その配送もその会社を元請にして頼んでいるんだ。」
「えええっ! じゃ、じゃあ、あの毎日のようにやってくるあの配送会社?」
「そうだ。」
「そ、その会社の社長さんってこと?」
「・・・・・・。」
今度は、父親が言葉を使わないで、ただ大きく頷くだけになる。
「そ、それはそれで凄いことじゃない? お父さんの同級生だった人でしょう?」
「う、うん。でも、その兄弟は、それだけじゃあないんだ。」
「ん? ど、どういうこと?」
「長男さんは奈良で宮大工の棟梁補佐をやってるし、長女のお姉さんは、今じゃあその勤めていた信金の理事長夫人だそうだ。」
「ええっっっ・・・。」
「それに・・・。」
「ん? ま、まだあるの?」
「次女さんは幼稚園の園長さんだし、次男さんは確かアルバイトに行っていた酒造会社に婿養子に入ってそこを継いでいるそうだし、三女さんは結婚して6人の子供がいるそうだ。
で、四男の子はしーサーになってレース中の事故で死んでしまったんだが、末っ子の男の子は県会議員で、今度は国政に打って出るって噂だ。」
「へ、へぇ~・・・。」
孝は、これに続く言葉が見つからない。
(つづく)