第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その126)
「で、その日は、その『社長室』を使えることになっていたその一番上のお姉ちゃんのお許しを得て、夕刻まではその4年生の男の子が使えることになっていたらしい。」
その当時のことを思い出してのことなのだろう。父親は、楽しげにそう言ってくる。
「ああ・・・、だからなんだ。友達であるお父さんを自宅に呼んだのは・・・。」
孝は、その男の子の気持ちになってそう解説する。
「だ、だろうな・・・。そこだと、『どうだ、いい部屋だろ?』って自慢できるからな。
おまけに、その日は秘書付きだったしな・・・。」
「ん? ひ、秘書って、そのお姉ちゃんのこと?」
「ああ、そうだ。『お友達を呼ぶんだったら、ジュースとケーキぐらいはお姉ちゃんが出してあげるわ』って言ってもらえたんだって、その子、くちゃくちゃな顔をして喜んでたんだ。」
「へ、へぇ~、気の利くお姉ちゃんだね。」
「自分が小学生の頃、狭い家で、しかも次々と赤ん坊が増えていく状況が続いて、とてもじゃないけど、友達を家に呼ぶことなんて出来なかったからなんだろうな。
そうした経験があるから、弟や妹には、出来ればそんな辛い思いはさせたくないって気持ちが強かったらしい。
だから、少しでも家族の支えになりたいって、大学には進学しないで、高校を卒業してすぐに就職をしたんだ。
ま、今とは違って、その当時はまだ景気がそんなに落ち込んではいない時代だったから出来たことなのかもしれないが・・・。」
「へ、へぇ~・・・、それまた献身的な・・・。」
孝は、そうは思うものの、この部分については声が小さくなった。
その当時のそのお姉ちゃん、まさに今の自分と同じ年代なのだ。
仮に、自分がそのお姉ちゃんの立場だったら・・・と考えると、とても同じ発想で同じ行動が取れたとは思えないからだった。
「その大村さんちって、今はどこにいるの?」
孝は、どうしてかそのことが気になった。
父親の言葉によると、今はもうその大村家はこの地域にはいないらしい。
「ん? む、難しい質問だなぁ~・・・。」
父親は、少し困ったような顔をする。
「ど、どうして?」
孝は、父親がその質問に答えたくないって思っているように感じた。
「大家族の家だったが、子供が次々に独立をし始めるとな・・・。」
案の定、父親の言葉はそこまでで一旦止まる。
(つづく)