第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その123)
「ああ・・・、あったんだな、これが・・・。」
父親は、どうしてか含み笑いをする。
ひょっとしたら、孝と同じ感覚がその当時の父親にもあったのかもしれない。
だからこその含み笑いなのかも。
「ど、どんな部屋だった?」
孝は、他人事ながらも興味はあった。
「それがな・・・。」
父親は、意識してなのだろう。意地悪をするかのように答えをなかなか言わない。
「ん?」
孝は焦れる。
「丁度、今、孝が使っている部屋と同じぐらいの広さでな。」
「ええっ! そ、そうだったの?」
孝は意外に思う。
小さな家に兄弟が8人もいるのだ。そのひとりひとりに、十分な広さの個室が取れるはずはない。
「お父さんも、これまたビックリしたんだ。で、その部屋にはちゃんと勉強机があって、本棚もあって、箪笥も置いてあって、おまけにその中央には何人かで囲めるような四角い和テーブルまでもがあったんだ。」
「ち、小さい家だったんでしょう?」
「ああ、そうだ。」
「それなのに、そんなに広い子供部屋があったってのは信じられないんだけど・・・。」
「それは、お父さんもだった。だから、ずばり訊いたんだ。ここって、兄弟全部で使う部屋なのかってな。ま、それにしては、机もひとつしかなかったんだが・・・。」
「そ、それで?」
「そうしたら、その子が、『ここは、子供が使う社長室なんだ』って・・・。」
「ええっ! シャ、社長室?」
「確かに、そう言ったんだ。」
「意味が分からん!」
孝は、まるでからかわれているような気分になる。
「そうしたらな、そこに、若い女の人がふたりにジュースを持ってきてくれたんだ。」
「ん? それって、その子のお母さん?」
「い、いや、お父さんも最初はそうなのかもと思ったんだが、どうやら違ってた。」
「だ、誰だったの?」
「その子が言うには、一番上のお姉ちゃんだって・・・。」
「お、お姉ちゃん?」
「ああ・・・、ビックリするほど綺麗な人だった。」
「と、歳ってどれくらい?」
「18歳だって・・・、で、高校を卒業してて、その春から駅前の信用金庫に勤めてるんだって・・・。そう言ってた。」
「そ、そりゃあ、随分と離れたお姉ちゃんだぁ~。」
孝は、そうは言いつつも、どうしてこんな話になるのかが分からなかった。
(つづく)