第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その122)
「お父さんが小学生だった頃、この近所に大村っていう家があった。」
どうやら、父親は具体論を述べるつもりらしい。個別の事例を引っ張り出してくる。
「ん? 大村って、今でもある、あの大村さんち?」
孝には、その「大村」という名前に心当たりがあった。
「い、いや、その大村さんじゃあなくって・・・。
ま、今じゃあ、この地域にも大村っていう家は3軒しか残っていないが、その当時は、この周辺だけで10軒ほど大村という家があったんだ。」
「へ、へぇ~・・・、そうだったんだ。」
「ま、もともとは同じ家から分家をした一族だったらしいんだが・・・。
で、そのうちの1軒でのことだった。」
「ま、まるで、『日本昔話』みたい・・・。」
孝は、父親の口調から、そんな感想を口にする。
「まぁ、聞いてくれ。」
父親も、孝が「昔話のようだ」と言ったことに手ごたえを感じたようで、にっこりと笑って話を続けてくる。
「で、その大村さんちには、5人の男の子と3人の女の子がいたんだ。」
「えっ! じゃあ、全部で8人兄弟ってこと?」
「ああ・・・、そうなるな。」
「そりゃあ、凄いや。今だったら、表彰モンだよね。少子化が進んでるって言うんだから・・・。」
「あははは・・・、そうだな。表彰されても良いほどだな。
で、その兄弟の丁度真ん中あたりの男の子と同じ組になることがあってな。」
「そ、それって、何年生の頃?」
「う~ん・・・、確か、4年生だったと・・・。で、その子と親しくなってな。
ま、もともとが同じ地域の子だったから、当然に顔と名前は知っていたんだが、さっきも言ったように、このあたりは大村っていう苗字の家が何軒もあったから、お父さん、その子の家がどの大村家なのかを知らなかったんだ。」
「ああ・・・、なるほど、それだと、確かにややこしいよね。」
「で、あるとき、その子が『家に遊びに来いよ』って言うもんだから・・・。」
「行ったの?」
「ああ、行った。で、ビックリしたんだ。」
「ん? ど、どうして?」
「8人も兄弟がいるって言うから、それなりに大きな家に住んでるんだろうって思ってたんだが、意外にも、こじんまりとした家でな。この家よりも小さかったんだ。」
「えっ! こ、この家よりも狭いところに8人の子供?」
孝は信じられなかった。如何に父親が子供の頃だったとしてもだ。
もし、今、この状態でこの家に8人もの兄弟がいたらと考えるだけでぞっとする。
「で、さらに『部屋に来い』って言うから、付いて行ったんだが・・・。」
「えっ! この家よりも小さな家だったんでしょう? そ、そこに8人の子供だったんでしょう? それなのに、その子の部屋ってのがあったの?」
孝としては当然の疑問である。
(つづく)