第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その121)
「でもな、それが兄弟っていう子供の世界じゃあ、至極当然のことになるんだ。」
父親は、その当時のことを思い出すのか、小さく何度か頷くようにして言ってくる。
「ん? そ、そうなのかなぁ~・・・。そうは思えないんだけど・・・。」
孝には理解できない。
妹沙希がいるが、だからと言って、今父親が話したような事例は一度も経験がない。
記憶がない幼少の時期は別にして、物心がついてからは、男と女、それぞれ友達という世界も別個のものになっていたからだ。
家の中では兎も角、外では一緒に遊んだという覚えさえない。
「だからなんだ。」
「ん?」
「お父さんが、孝に弟が欲しかったのは・・・。」
「・・・・・・。」
「兄妹と言っても、やはり男女の区別は自ずから生まれる。つまりは、共有する、あるいは共有できる世界が小さくなるんだ。
だから、本当は、同じ男の子の兄弟が良かったんだ。」
「ど、どうして、そこまで拘るの? 男でも女でも、そんなに違わないんじゃない?」
「いや、違う。違うんだなぁ~・・・。」
父親は、一旦は声を荒げるように言いかけたものの、すぐさまそれを言い直してくる。
「兄弟が多いってことに、お父さんは憧れたんだ。」
「ん? たかが、そんなことで?」
孝は、父親が兄弟が多いことに憧れる理由がよく分からない。
まさか、子供同士で遊ぶときの多数決で有利になるってことが理由だとは思えないのだが・・・。
「ん? たかが? う~ん、確かに、たかが兄弟、単に一緒に暮らす子供の数が多いだけってことなんだが・・・。」
「・・・・・・。」
「兄弟が多いと、いろんなものを取り合うようになる。おやつもそうだし、ご飯のおかずだってな。そして、両親との関わりもだろう。
でもな、逆に共有出来るものもあるんだ。」
「玩具とか?」
「い、いや、そうした物質的な面ではなくって・・・。子供同士の価値観、つまりは、家庭の中で親の世界と子供の世界が並列するように出来てくるんだ。」
「ん? それって、どういうこと?」
「普通、親子関係ってのは、基本的には両親とその子供だ。つまりは、2対1だな。
だが、兄弟が多いと、それが2対エックスになるんだ。」
「2対エックス!?」
「ああ・・・、2対エックスだ。5人兄弟だと2対5になるし、3人兄弟だと2対3ってことになる。
つまりは、子供がひとりで親と向き合うって場面が圧倒的に少なくなるんだ。」
「ああ、そ、そういうこと?」
孝は、「それって単純な人数を入れただけじゃないの?」と思っている。
(つづく)