第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その117)
「ま、それも運命だってことだ・・・。」
父親は、ひとつ大きな深呼吸をしてそう言う。
取りようによっては、その深呼吸が溜息とも思えなくもなかった。
「ん? 僕に弟ができなかったってことが?」
孝は、父親の言う「運命」がどのことを指しているのかよく分からない。
「いやいや、そういうことだけじゃあなくって・・・。」
「?」
「だからな、孝や沙希がこの家に生まれてきたことも、そして、お父さんが希望していた孝の弟が出来なかったこともってことだ。」
「・・・・・・。」
「孝はそう思わんか?」
「う、う~ん・・・。運命だって言われれば・・・、ま、そうなんだろうけど・・・。」
孝は、些かの違和感を覚えつつも、そこまで言われると父親の意見に具体的に反論できるものはない。
ただ、父親が言った「運命」という言葉のイメージは孝が持っていたものとはどこか違うような気がしてならなかった。もっと強烈で、もっと絶対的な凄さがあるように思っていた。漠然とだが・・・。
「お父さんはひとりっ子だった。それも運命だ。」
「・・・・・・。」
「あるとき、お婆ちゃんに『どうして僕には兄弟がいないの?』と訊いたらしい。お父さんは覚えちゃあいなかったんだが・・・。」
「それで?」
孝もその答えが気になった。
「お婆ちゃん、困ったんだろうな。で、『お母さんには分からないから、お父さんに訊きなさい』って言ったらしい。」
「そ、それで?」
「お父さんがお爺ちゃんに訊ける訳ないだろ? だから、そのときはそのまんまだった。
で、お父さんが中学に入るときだったかに、お爺ちゃんがその理由を話してくれたんだ。」
「・・・・・・。」
「お爺ちゃんもお婆ちゃんも子供は大好きで、出来れば7人ぐらいは・・・と思っていたそうだ。
それでも、やはり体質ってのがあるらしくって・・・。欲しくっても、出来なかったんだってことらしい。今で言う不妊体質っていうのかな。」
「へ、へぇ~・・・、そ、そうだったんだ・・・。」
孝にはどうしてか意外に思えた。
「ま、それだけに、お父さんはお爺ちゃんとお婆ちゃんの愛情を一身に受けて大きくなったんだが・・・。」
「ん?」
孝は、そう言う父親に、どこか否定的なニュアンスがあることに気がついた。
(つづく)