第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その115)
「お父さんが生まれたのはこの家だ。
そうは言っても、別に、この家で産声を上げたんじゃあない。おぎゃあと叫んだのは病院だ。
そういうことではなくって、お爺ちゃんという父親がいて、お婆ちゃんという母親がいて、そしてその当時はお爺ちゃんの母親、つまりはお父さんから見てのお婆ちゃん、孝から言えば曾お婆ちゃんもいた。そして、その全員で農業をやっていた。
そうした家に、そうした家族のところに初めての子供、長男として生まれてきたってことだ。」
父親は意識してなのか、ゆっくりとした口調で話を続けてくる。
「もちろん、これまた何度も言うことだが、それはお父さんの意思じゃあない。
だからと言って、拒否したのにこの家に生まれてきたってことでもない。
つまりは、気がついたらこの家の子になっていたってことだ。天の配剤の結果だ。
これを運命と言わずして何と言う?」
(ん?)
孝には、父親が言った「テンノハイザイ」という言葉は分からなかった。
耳にしたことがあるような気もするのだが、その言葉が意味するところを知らなかった。
それでも、それを問えない雰囲気があった。
「さっきも言ったが、どこの国のどんな夫婦の子に生まれるか。それによって、人生、相当に左右されるものだ。いや、生き方がある程度限定されると言っても言い過ぎじゃあないだろう。」
「・・・・・・。」
「それでも、生まれてくる子供はそれを選択できないんだ。
考えようによっては過酷なことなのかもしれないが、人類は、いや、すべての生き物はそうした過酷な状況の中で脈々とその命を繋いできたんだ。
それこそが、生きるってことそのものなんじゃないかってお父さんは思うんだ。」
「・・・・・・。」
「お父さんが生まれたこの家は、家業として農業、いや、お父さんが生まれてからは果樹園に移行し始めたんだが、そうした仕事を生業としていたんだ。
お爺ちゃんやお婆ちゃんがその仕事を懸命にやってくれていたから、お父さんもご飯が食べられたし、学校にも行かせてもらえたんだ。
な、そうだろ?」
父親は、ずっと黙っている孝に配慮したのか、ここで簡単に質問を投げて寄越す。
(つづく)