第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その114)
「ま、守るって・・・。」
孝はオウム返しにその言葉を呟く。
正直言って、ピンと来ないのだ。
「交通ルールを守ろう」「学校の規則を守ろう」「友達との約束は守りましょう」・・・。
孝にとっては、その「守ろう」という言葉自体に窮屈さがあるのだ。
確かに、日本語としては「家を守る」とか「国を守る」とかが存在することは理解をしている。してはいるのだが、それはあくまでも本などに書かれた「言い回し・表現」であって、孝のこれまでの日常生活でそうした感覚に触れた経験はまったくなかった。
それこそ、「俺には関係ないことだ」との意識が強かった。
だが、父親は、今の孝と同じ年齢のときに、「家を守る、家族を守る、それが宿命だ」と思ったと言う。
父親が嘘を言っているとは思わないが、それでも、その言葉を素直に飲み込めていないのもこれまた事実なのだ。
「同じことの繰り返しになるが、お父さんもこの家に生まれたのは運命だと思うんだ。」
孝の反応を見定めたと思ったのか、父親がまた口を開いてくる。
「戦国時代で言えば、ひとつの国の中のとある一軒の家に生まれたのと同じだ。」
「・・・・・・。」
「その国が強い国なのか弱い国なのか、生まれた家が裕福なのかそうでないのか、親が武士なのかそれとも農民なのか、はたまた商人や職人なのか・・・、さらには、本人が男なのか女なのか、そして兄弟が多いのか少ないのか・・・。
本人の努力云々の前に、そうした諸々のことが、つまりは本人の意思や能力とは別の要素ってものがそこに生まれてきた人間の一生に大きく影響するんだな。」
「で、でも・・・。」
孝が口を挟もうとする。
「ま、良いから、ここは黙って聞け。全部を話し終えたら、改めて孝の言い分を聞いてやる。」
珍しく、父親が語気を強めた。
滅多に、いや、孝の記憶の中にはなかった父親の強硬な態度である。
「・・・・・・。」
孝が黙ってしまったのは言うまでもない。
(つづく)