第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その113)
「お父さんはこの家に生まれた。
もちろん、自分の意思じゃあない。気がついたら、この家の子だった。」
父親は、一転して、今度は孝の顔から視線を外すようにして言って来る。
「・・・・・・。」
孝は黙って聞く。誰しもが同じ気持ちだろうと思うからでもある。
「子供時代には、親に叱られたりすると『どうしてこんな家に生まれてきたんだろう?』って不平を言うこともあるんだろうが、それは誰しもが同じように思うもので、それがその人間が持って生まれた運命というか、宿命というか・・・。
つまりは、どう思おうが、その事実は自分ではどうしようもないってことだ。
な、そうだろ?」
「う、うん・・・。」
「戦国時代じゃあ、強い国もあれば弱い国もあった。そして、強い国が弱い国を攻めて占領する。支配下に置く。
それに抵抗すれば、それすなわち死を意味する。つまりは殺される。国として亡ぼされる。弱肉強食、それが当時の常識だったんだからな。」
「・・・。」
「誰だって、そうして殺されたくはない。天寿を全うしたいって思うもんだ。
強い国に生まれた人間はその一員として、そして、弱い国に生まれた人間もその一員としてな。
それでも、歴史が証明している通り、そうした人々の純粋な希望が叶えられることは殆どなかったと言って良いだろう。」
「・・・・・・。」
「幸いなことに、現代ではそうした実際の生死をかけなければいけないような戦争というものはなくなった。少なくとも、今の日本ではと言うことだが・・・。」
「・・・。」
「それでも、だからと言って、守らなければいけないことが無くなったのではないってことだ。」
「ん?」
「それが、家であり、家族であり、技能や知識の継承ってことだ。
お父さんはそう思ったんだ。」
父親は、そこまでをほぼ一気に話したかと思うと、息を継ぐように珈琲を口へと運ぶ。
(つづく)