第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その111)
「つまりは、親としては、子供が育っていく環境をそれとなく作ることしか出来ないってことだ。後は、子ども自身が持つ生命力、生き抜く力次第ってことだ。」
父親は、改めてそう結論付けてくる。
「そ、それはわかるけど・・・。」
孝はそう応じるしかない。
父親が言っている意味は何となくだが分かるような気もする。
要は「お前次第だ」と言われているのと同じだからだ。
学校で何度も聞かされた言葉と重なる。
「だから、お父さんも、今まで、孝には細かいことは言ってこなかった。お爺ちゃんがお父さんに対してそうであったように・・・。」
「・・・・・・。」
孝は黙って首を縦に振る。否定はしないし、出来もしない。
「昔は、と言っても戦国時代のことなんだが、15歳で成人したんだ。」
「ん? 15歳? 20歳じゃなくって?」
「ああ・・・、男の子は、15歳になれば大人の男として認められたんだ。自分で家を持つことも、結婚することも許された。」
「へ、へえ~・・・。」
「その代わりだ・・・。」
「ん?」
「戦に出ることも義務になった。つまりは、同時にいつ戦場で死ぬかも知れないってことになったってことだ。」
「えっ! 15歳で戦場に?」
「ああ・・・、それが、大人の男としての責任だったからな。
今でも何かあると『生きるか死ぬかの戦いだ』とか言いはするが、当時では、まさに本当の命が掛かっていたんだから、その緊迫感ってのは比較にもならんだろう。」
「・・・・・・。」
「だからこそ、親は、男の子には剣術や馬術を徹底して教え込んだんだ。それが、生き延びるために必須の技能だったんだからな。」
「な、なるほど・・・。」
「現代で言えば、それが学校での勉強に当たるんだろう。」
「・・・・・・。」
「だからって、お父さん、何が何でも勉強が出来なきゃ駄目だとは言わない。
今は戦国時代じゃあない。武術だけが生き延びる技術だとされる時代ではない。
でもな、男が生きていく上においては、どうしても何らかの技術や技能ってのが必要だって事は何ら変わってないんだ。
言ってることは分かるよな?」
「う、うん・・・。」
「それを見つけ出して習得する期間が、いわゆる『子供時代』ってことなんだ。
子供だって言うと孝は怒るのかも知れんが、逆に『成人するまでにそうした技能を身につけておく必要がある』と言えば納得できるか?」
父親は、言葉が少なくなっていた孝の顔をじっと見て言ってくる。
(つづく)