第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その109)
「そ、そうか・・・、孝も、そのことは感じ取っていたんだなぁ~・・・。」
孝の心配をよそに、父親はそう軽く受けてくる。
孝も、それを聞いて内心ほっとしていた。
「昔から『親はなくとも子は育つ』って言葉がある。」
父親は、また珈琲を一口飲んでから口を開く。
「それは、お爺ちゃんの口癖でもあった。」
「・・・・・・。」
孝は口の挟みようがない。
「『人間は樹木と同じでな・・・』ってのがお爺ちゃんの理念だ。」
「ん? 樹木と一緒って?」
「ほら、よく言うだろ? 『人間、大地にしっかりと根を張らなければ・・・』とか、『大木のように大きく手を広げて・・・』とか。」
「う、うん・・・。」
ありきたりの話で、孝も何ら反論すべきものではない。
「だから、子供の名前に『大樹』とか『楓』とかをつける親もいる。」
「そ、そうだね。僕の友達にもそうした名前の子がいるよ。」
「で、お爺ちゃんが言うには、『“親”っていう字をよく見てみろ』って・・・。」
「ん? 親という字?」
「ああ・・・、“立つ”に“木”に“見る”って書く。」
父親は、そう言って、テーブルの上でその字を描いてみせる。
「・・・・・・。」
孝は、「それがどうした?」と思うものの、もちろん口には出さない。
そんな字、小学校の子でも知ってると思う。
「つまりは、親というものは、子供である木が立ち上がっていくのを見ている存在だってことだ。」
「そ、それは、屁理屈って言うもんじゃない? たまたま、偶然のことで・・・。」
「あははは・・・、さすがにお父さんの子だ。まったく同じ事を言う。」
父親はそう言って笑った。
「ん? て、ことは、お父さんも同じことをお爺ちゃんに言ったってこと?」
「い、いや・・・、お父さん、お爺ちゃんにはそうは言えなかった。ただ、そう思っただけだ。」
「な、なんだ・・・。」
「で、でもな・・・、確かに、孝の言う通りなんだが・・・、じっくり考えると、お爺ちゃんが言っている意味も、これまた否定はしにくいものだって思うようになって・・・。」
「ん? ど、どうして?」
「それは、お父さんが、お爺ちゃんにそうして育てられたからだ。
そして、今になって、この歳になって、それが良かったんだって感じれてるからだ。」
父親は、そう言って大きく頷く。まるで、自分にそう言い聞かせているようにだ。
(つづく)