第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その108)
「お父さん、あの時、行きたいのであれば、私立の中学でもいいんだぞって・・・。」
孝は、父親の話にそのまま乗るような感覚で言う。
「ああ、そ、そうだったな。学校の先生からも、孝の成績であれば名門と言われる私立中学でも大丈夫だろうって言われてたしな。」
父親は、まるで待ってましたとばかりに話を転がしてくる。
「珈琲を入れながら、そうしたことも考えてたんだ。」
「ほ、ほう・・・。それでも、孝、最終的には公立の中学を選んだんだ。それはどうしてだったんだ? 今だったら言えるだろ?」
「ん? 僕、そのとき、その説明ってしなかった?」
「ああ・・・、聞いてない。」
「ど、どうして?」
「どうしてって、それは孝が言ってこなかったからだ。」
「ううん、そういうことじゃなくって・・・。」
「ん? どういうこと?」
「だからさ、仮に僕が何も言わなかったとしてもだよ、お父さん、親として『どうするんだ?』って訊くものでしょう? それが普通だと・・・。」
「う~ん・・・、どうしてって問質さなかったか・・・。それは、実は、お爺ちゃんからそう言われてたんだ。自分で決めさせろって。
で、自分から言ってくるまでは、ほっておけって・・・。」
「ええっ! お、お爺ちゃんが? お爺ちゃんがそう言ったの?」
「ああ、その通りだ。」
「・・・・・・。」
孝は、初めて聞く話にただただ驚くばかりだった。
「私学って随分とお金がいるんでしょう?」
孝は、当時を思い出して、改めてそのときの検討課題を並べてみる。そうでもしなければ、今の父親の質問には答えられそうになかった。
「ああ・・・、それは事実だろうな。公立と比べればな。だけど、孝、まさか、経済的なことが心配で私学を諦めたってことじゃないんだろうな?
その心配をしないようにと、初めに『私学でもいいんだぞ』って言ったんだからな。」
「そ、それも、お爺ちゃんの指示で?」
「・・・・・・。」
父親は、返事をしない代わりに、黙ったままで大きく二度頷いた。
「や、やっぱりそうだったんだ・・・。」
「それでも、その当時、孝はお爺ちゃんがそんなことを言ってるとは知らなかっただろ?」
「も、もちろん・・・。だけど、友達の家と違って、お父さんがなんやかんやと細かいことに口を出してこないのは、きっと、お爺ちゃんの存在があるからなんだろうとは思ってたんだ。」
孝は、そう言ってから、改めて父親の顔に視線を走らせた。
一瞬、「不味いことを言ったかも」と思ったからだった。
(つづく)