第1章 爺さんの店は何屋さん? (その13)
「確か、当時は高校1年だったかなぁ~・・・。
と、言っても、学校には通っていなかったんだが・・・。」
爺さんは、奥に当の本人がいるにも関わらず、そんなことを気にすることも無く言ってくる。
「ええっ! こ、高校1年! お店って、そうした若い人がお客さんなんで?」
おっさんは信じられない気持で訊いている。
60代の爺さんの店に10代の若者・・・。
あまりに不釣合いに思えたからだ。
「い、いえ・・・、決してそんなことはないんですよ。
私と同年代の方も結構おられますし、80代の先輩も来られます。
その一方で、彼のような10代20代の子もいるってことでしょうか・・・。
少ないのは、40代、50代ぐらいですかね?」
「ず、随分と巾が広いんですねぇ~・・・。」
「ええ・・・、まあ。」
爺さんは、コーヒーを口にする。
「おおっ! な、中条君!」
爺さん、突然のように奥の若者を呼ぶ。
「は、はい・・・。」
奥から声だけが応えてくる。
「これ、店から持って来てくれたのか?」
「ええ・・・、御口に合いませんか?」
「い、いや、そうじゃなくって、その逆だ。旨いコーヒーだ。」
「そ、そうですか・・・、それは良かった。俺が初めてフレンドしたんで、山羊さんにそう言われたら嬉しいっす。」
「ん? これ、中条君が作ったのか? そ、そうか、そうだったのか・・・。」
「・・・・・・。」
「小池さん、飲んでやってください。」
爺さん、おっさんがまだ飲んでいないのを見てそう言ってくる。
「あ、はい・・・、じゃあ・・・。」
おっさん、角砂糖を入れて掻き混ぜる。
で、煽られるようにして一口飲む。
「んんん! お、美味しいです、美味しいですねぇ~・・・。」
おっさん、今までに出会ったことの無い味に、思わずそう言う。
「ありがとうございます!!!」
奥から若者の声がする。
今のおっさんの反応を喜んだのだろう。
「彼は、今、とあるコーヒーショップにいましてね。言わば、修行中ってところでしょうか・・・。
まだまだだと思っていたんですが、こんなブレンドが作れるようになっていたとは・・・。」
爺さん、改めてコーヒーを口に入れる。そして、満足そうな顔をする。
「いえ、まだまだですよ。試行錯誤ばかりで・・・。
ですから、オーナーにはまだ飲んでもらってないんです。」
若者が水を持ってきてくれて言う。
「そう言えば、佐々木さんともしばらく会ってないなあ~。元気なのか?」
爺さん、若者の顔を見上げるようにして訊く。
「ええ・・・。ただ、・・・。」
「ん?」
「奥さんが・・・。」
「ええっ! 弥生さん、どうかしたのか?」
「今、入院されてまして・・・。」
「ど、どうして?」
「糖尿が悪化したとかで・・・。」
「いつのことだ?」
「1週間ほど前です。」
「おい、だったら、どうしてワシに連絡してくれない? いつも、世話になっているのに・・・。」
「う、う~ん・・・、そ、それが・・・。」
「どうした?」
「山羊さんには言わないでくれって・・・。奥さんが・・・。」
「そ、そっか・・・。分かった。中条君から聞いたとは言わないよ。
で、病院はどこなんだ?」
「市立病院だそうです。俺も、まだ行けてないんです・・・。」
おっさんは、またまた黙って聞くだけになる。
(つづく)