第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その99)
「んん? そ、それって、ど、どういうこと?」
孝は、口に運びかけていたカップを止めて、そう聞き返す。
他愛のない会話のつもりだったが、父親が言った「だろ?」の一言がやけに気になったからだ。
「何がだ?」
父親が問い返してくる。孝が入れた珈琲を一口飲んでからのことだった。
それでも、惚けている風には思えない。
「だ、たからさ・・・。今、お父さん、『だろ?』って・・・。」
「ん? ああ・・・、そ、そのことか・・・。」
「・・・・・・。」
孝は、意識して言葉を挟まない。父親が次の言葉を整理しているのだろうと受け止めたからだった。
「う~ん、たいしたことじゃあない。」
それなりの時間があったにもかかわらず、父親はそう言ってくる。いや、そうとしか答えてこない。
「で、でも・・・、気になるじゃない?! そんな言い方って・・・。」
「・・・・・・。」
また父親は時間を使う。
「僕の珈琲の入れ方を褒めてくれたよね?」
「ああ・・・、確かに。」
「で、僕が『毎日自分で入れて飲んでるから』って・・・。」
「ああ、そうだったな。」
「そこで、そのタイミングで、お父さん、『だろ?』って言ったんだ。」
「ああ・・・。」
「だから、その意味を訊いてるんだ。お父さんが言ったことなんだし・・・。」
「う~ん・・・、だから、改めて言うほどたいした意味はないって・・・。気にするな。」
「・・・・・・。」
そう言われても、とてもじゃないが納得できる孝ではなかった。
親子と言えども、いや、親と子という関係があるからこそなのかもしれないが、こうしたたった一言に感じた温度差を無視したままで前には進めない。
折角、こうしてふたりだけで話す機会に恵まれたのだ。
別にそれを望んでいたのではないが、父親がここまで踏み込んだ話をするのは初めてと言っていい程稀なことだ。
その貴重さを覚えたからこそ、こうして2杯目の珈琲を入れるまでに譲歩したのだ。
勉強の時間を割いてまで・・・。
孝は、そう思っていた。
だからこそ、このままでは何もかもが中途半端に終わってしまいそうな気がしたのだ。
(つづく)