第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その95)
「ああ、そうだ。その点、お爺ちゃんはほぼ満点に近かったんじゃないかって思うんだ。
もちろん、お父さんも、自分が子供の時にはそうは思えてなかった。
それでも、こうして結婚をし、そして子供を持って、つまりは父親という立場に自分が立ってみて、改めて『お爺ちゃんはお父さんのことをよく分かってくれていたんだ』って思うんだ。」
父親は、そう補足してくる。
「じゃ、じゃあ、その中学の時には、そうは思ってなかったってこと?」
孝はその点を突っ込む。まさに、今の自分と重なるものがあるからだろう。
「ああ・・・、そうだな。だから、子供心に反抗する、あるいは反抗したいって気持ちもあった。それは事実だ。」
「・・・・・・。」
孝は、言葉にはしないものの、本音としては「やっぱ、そうだったんだ」と思う。
「それでも、何度も言うようだが、お父さんから見たお爺ちゃんは、家では『絶対的な存在』だったんだ。だから、反抗したい気持ちがあっても、それをお爺ちゃんに直接ぶっつけることは出来なかった。
やはり怖かったんだな。何よりも、そして、誰よりもな。」
「そ、それって、嫌じゃなかった?」
孝はそう訊く。この部分は自分にはない感覚だったからだ。
「う~ん・・・、どうだったんだろう。嫌だと言えばそうだったかもしれんが・・・。」
「逃げようって思わなかった?」
「逃げる? つまりは、家出するってことか?」
「そ、そこまではしないまでも・・・、お爺ちゃんを避けようとしたり、無視したり・・・。」
「う~ん・・・、それはなかったなぁ。第一、避けようとしたり無視したりするまでもなかったからな。」
「んん? ど、どういうこと?」
「そこまで、お爺ちゃん、お父さんに構うことがなかったんだ。だから、周囲からは『お前んちは放任主義だなぁ』って言われたほどだったし・・・。」
「ええっ! そ、そうだったの?」
孝は意外に思った。父親は祖父に相当に管理されていたというイメージがあったからだ。
そして、それは今でも同じだと受け止めていたからだ。
「ああ、だから、家でも学校でも、お父さん、お爺ちゃんから『ああしろ、こうしろ』って細かく言われた記憶はないんだ。
ただ・・・。」
「ん? ただ?」
「何かがあると、つまりは、お爺ちゃんが『これは言っておかなきゃ』って思ったことだけは厳しく言われた。」
「ああ・・・、な、なるほど・・・。」
孝は、先ほど、祖父がぶどうの収穫時期について短く父親に指示を出していた場面を思い出していた。
(つづく)