第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その94)
「それは、一家の主としてのことでしょう?
僕が訊いているのは、子供、つまりはお父さんに対する責任で・・・。」
孝は、父親の答えに噛み合わないものを感じた。
「親としての責任ってことだな?」
父親も孝の思いは分かっているようで、敢えてそうなぞってくる。
「う、うん・・・。」
孝も、そう明言されると少なからずたじろいでしまう。
「じゃあ訊くが、父親の子供に対する責任って、孝はどう考えているんだ?」
「ど、どうって・・・。」
「お爺ちゃんの言動が父親として無責任だと言うのであれば、じゃあ、どうすべきだったのか、どうすれば無責任ではなかったのか、説明できるだろ?」
「う、う~ん・・・。」
孝は答えられない。
こんな筈ではなかったと思うのだが、こうして真正面からストレートに問われると、それを跳ね返すだけの理論武装ができていないことに気がつく。
「お父さんは、その当事者として、そのときのお爺ちゃんの対応にはそれまでに感じたことがない迫力ってのを感じたんだ。
お爺ちゃんが先生宛に書いた手紙、あれは、本当はお父さんに対する手紙だったんだ。
少なくともお父さんはそう思ってる。
いや、それは、お父さんだけじゃあなくって、受け取った担任の先生でさえ、そう受け止めたんだ。だからこそ、先生、お父さんに向かって『これ読んでみろ』って見せてくれたんだ。」
「・・・・・・。」
「お爺ちゃんの手紙にあったとおりでな。お父さん、お爺ちゃんの前だと、言いたいことの半分、いや十分の一ぐらいしか言えなかったんだ。
だから、もし、その進路相談の席にお爺ちゃんが同席でもしておれば、きっと一言も自分の意見を言うことは出来なかっただろうって思うんだ。」
「で、でも・・・、だからって・・・。」
「父親の子供に対する責任ってのは、人によってそれぞれ考え方、受け止め方がある。
どれが正しくって、どれが間違っていると線を引くことなんて誰にも出来ないもんだ。
それでもな、これだけは言えるんじゃないかって思うことがある。」
「んん?」
「どれだけ、子供のことを分かっているかってことだ。」
「わ、分かる・・・。」
孝は、その言葉に自分の中の何かが動いたように思った。
(つづく)