第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その92)
「お爺ちゃんは、そうしたお父さんの本音を読み取っていたんだろうな。その進路相談の席に来なかったんだ。事前に学校から書面で通知されていたのにな。
だからと言って、無視をしたのでもなかった。」
父親はそこで一呼吸空ける。
「ん? で、でも、来なかったんでしょう?」
孝は事実だけを取り上げる。
「ああ・・・、だけど、その代わりに丁寧な手紙を書いて先生に渡していたんだ。しかもだ、それを先生の自宅に前の日に届けていたらしい。」
「ええっ! じ、自宅に?」
孝は驚いた。今の時代、そんなことをする親もいないだろうし、自宅の住所を開示している先生もいないからだ。
「『これ、読んでみろ』って、先生にその手紙を見せられてな。」
「な、なんて書いてあったの?」
「要約すると、『息子の将来は息子自身に決めさせたい』ってことだ。」
「つまり、お父さんが決めれば良いってこと?」
「そ、そうだな。」
「良かったんじゃない? お父さんも、そうしたかったんでしょう?」
「う~ん・・・、確かに、それはそうだったんだが・・・。」
「ん? 違うの?」
「『本人に決めさせなければ、後悔をするような事態に至った場合、碌な結果にならないだろうから』って書いてあったんだ。」
「碌な結果にって・・・。」
「つまり、人生、どんな道を行ったとしても、決してうまく行くことばかりじゃあないってことなんだろう。その道を選択したことを後悔する場合もあるってことだ。
そのときに、誰かの強い影響があってその道を選んだとしたら、本人、その人を恨むことになる。」
「そ、そんなぁ・・・。」
「人間ってのは、そうした生き物なんだ。
『俺の自由だ』って主張するのに、失敗したときに『俺の責任だ』とは考えないってことだ。。
も、もちろん、お父さんも中学時代にはその意見に賛同できなかったんだが・・・。」
「そ、それで?」
孝は意識して話の先を急ごうとする。
ただ、その理由は自分でもよく分からない。
「だから、『進路を決めようとするときに、親である私がその傍におれば、息子は私の顔色を窺うことになるだろう』って書いてあった。
だから、折角のお呼び出しではあるが、欠席をさせていただきたいって。」
「そ、そんなぁ~・・・。それこそ、親として無責任じゃないの?」
孝は、思わずそう反論する。
(つづく)