第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その91)
「お父さん、先生にそう言われてショックだった。」
父親は、当時の心境を思い出すのか、両手で自分の顔を拭う。
「だ、だよねぇ~、そんな言い方って・・・。」
孝は当時の父親の心境を慮ってそうフォローする。
「そりゃあ、お父さんだって『そんなこと、思っちゃあいません!』って言いたかったさ。
でもな、冷静になって振り返ってみると、先生の指摘は決して的を外してないって・・・。」
「ええっ! ど、どうして?」
「だから、さっきも言ったんだが、自分が何をしたいのか、どんな大人になろうとしているのか、そうした方向を決めることに躊躇してたんだな。極端な話、中学を卒業したくなかった。つまりは、答えの先延ばし、決断の先送りだ。」
「そ、そんなぁ~・・・。」
「中学までは義務教育だ。言い換えれば、どこの家のどんな子でも、そこまでは教育を受ける権利があるし、親はその教育を受けさせる義務がある。
だが、中学を卒業したら、そこから先は本人と親とが自由に決められる。
高校から大学へと進学する道を選択することも出来るし、逆に卒業後すぐに仕事に就くことも可能だ。」
「そ、それはそうだけど・・・。」
「お父さん、その“自由に決められる”ってところばかりに意識が行ってたんだ。」
「ん?」
「つまりは、『俺の自由だ』ってことだ。」
「・・・・・・。」
孝は、言葉にはしなかったが、本音は「そのとおりでしょう?」と思った。
「それでも、家業を継ぐことも将来の選択肢として排除してはいなかったんだ。
さらに言えば、それだって、つまりは家業を継ぐか継がないかもお父さんの自由だって、頭のどこかで思っていたんだろうな。」
「・・・・・・。」
「先生が『両親を侮辱していることになる』って指摘したのは、きっとそうしたお父さんの身勝手さを感じていたからなんだろう。」
「で、でも・・・。」
孝は、まるで今の自分が指摘されたような気持ちになった。
「決してそうじゃあない」って言いたいのだが、それが言葉になっては出てこない。
(つづく)