第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その90)
「ひとつは、さっきも言ったんだが、日本にはそうした技術者が大勢いる企業がないってことだ。
お爺ちゃんからもそうした話を聞いていたんだが、学校の先生からも同じような話をされてな。
それに・・・。」
父親はそこで珈琲に手を伸ばす。
「ん? それに?」
孝は話の先を急ぎたかった。
「そうした大企業の技術者になろうとするんだったら、最低でも一流と言われる大学の工学系を卒業しなければ・・・って言われて。」
「う、うん・・・、そ、そうだろうね。」
孝もその点は同調できる。まさに、自分がそうした選択の立場に立たされているのだから実感もある。
「でもなぁ~・・・、お父さん、飛行機の設計がやりたいって思うのに、学校の成績は数学も理科も中程度だったし・・・。いや、気持ちとしたら、理数系は苦手だったんだ。
学校の先生はその点を指摘してきてな。今の成績じゃあ、工学系の大学は苦しいぞ。高校で相当に勉強をしなければ・・・って。」
「そ、それで、どうしたの?」
「だからな、大学に行きたいのなら普通科の高校に行くべきだ。そうではなくって、専門的な能力を早くに習得したいのなら工業高校・商業高校・農業高校という選択もある。
そう言われたんだ。」
「そ、それで?」
孝は畳み掛ける。
「担任の先生が最後に言った言葉が強烈でな。」
「ん? な、何て言われたの?」
「『お前は家業がちゃんとしているってことで甘えてないか!』って・・・。」
「ええっ! あ、甘えてる?」
「ああ・・・、とどのつまり、最後は家業を継げばいいんだからって思ってないかってことだ。」
「そ、それで、お父さん、どう言ったの?」
「う~ん・・・、何も言えなかった。」
「・・・・・・。」
「そうしたら、先生、こうも言うんだ。
『それって、お父さんやお母さんを侮辱してることになるんだぞ』って・・・。」
「えええっっっ! ぶ、侮辱って・・・。」
孝は絶句する。
と、同時に、恐らくは、その言葉を聞いた当時の父親も同じだったに違いないと思う。
(つづく)