第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その89)
「お父さんが『家業を継ごうと思ってるんだけど・・・』って言ったら、お爺ちゃん、『本当にそれで良いのか?』って念を押してきたんだ。」
父親は、どうしてか少し声を落とすようにして言ってくる。
「ん? ど、どうして? どうして、そんなことを?
お爺ちゃん、お父さんが跡を継いでくれることを期待してたんじゃないの?」
孝は意外な展開にそう問い返す。
今までの話の流れからして、祖父がそれを希望していたことは明らかなのだ。
それなのに、本人がそう申し出てきたのに、どうして「本当にそれで良いのか?」なんて訊くのだろう?
そう思ったからだ。
「もちろん、お父さんは『うん』って返事したさ。
お父さんだって、単なる思いつきやその場の気分で言ったことじゃあなかったんだ。
それまでは、どちらかと言えばその話題から逃げてたんだが、いざ高校を卒業する年になってみて、もう逃げてる場合じゃあないんだって思うようになったんだ。」
「ん? 逃げてる?」
「ああ・・・、逃げてた。言い方を変えれば先送りしていたってことだ。」
「先送り?」
「ああ、先送りだ。
お父さんが通っていたのは農業高校だ。つまりは、もうその時点で、飛行機の設計をするって夢は半分は放棄したってことになる。」
「そ、そうか・・・。」
孝にも、その部分については理解が出来た。
もし、父親が本当に飛行機の設計を目指すのであれば、少なくとも農業高校への進学は筋違いだろう。
「でも、その農業高校に進学するときだって、お爺ちゃんに言われたからそうしたんじゃないんだ。」
「えっ! じゃ、じゃあ、お父さんの意思で?」
孝は、これまた意外だった。てっきり、祖父の勧めがあってのことだろうと勝手に思い込んでいた。
「中学での進路指導で、『高校は、将来の進路のことを踏まえて選択しなくっちゃいけない』って言われてな。」
「う、うん・・・、それはそうだと思うけれど・・・。」
「そのときに、お父さん、飛行機の設計ってことが頭に浮かばなかったんだ・・・。」
「えっ! ど、どうして?」
「すでに、理想からは外れてたんだろうな。」
「理想から外れるって?」
孝は、父親の言い方が気になった。いや、引っかかった。
(つづく)