第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その88)
「お父さん、それで納得したの?」
孝はその点が最も気に掛かる。今の自分と重なるものがあるからだ。
「ん? な、納得? う~ん・・・、どうだったんだろうな?」
父親は孝の目を覗き込むようにして言ってくる。
だからって、孝の質問には答えてこない。
「で、でも・・・、最終的には、こうして家業を継いでるんだし・・・。
だから、飛行機の設計をしたいっていう夢はどうしたのかなって・・・。」
孝も自分が微妙なことを訊いていることだけはしっかりと意識していた。
本当は、真正面から訊くべきことではないのかもしれない。
父親の威厳とか尊厳とかもあるだろう。例え、自分の息子であっても、本当のことを言いにくいことであるのは確かだ。
それでも、孝はどうしても父親の思いを聞きたかったのだ。
例え、それが事実ではなかったとしても・・・。
「だから、さっきも言ったろ? お爺ちゃんは、頭ごなしに『駄目だ』って否定したりはしなかったって・・・。」
「じゃ、じゃあ・・・。」
孝は意味が分からない。
「うん、だから、最終的には、お父さん、自分の意思で家業を継ぐ、つまりはお爺ちゃんの跡を継ぐって決めたんだ。」
「そ、それって、いつ頃?」
孝は、そのタイミングも知りたかった。どの年齢でそう決心をしたのか。
やはり、今の自分と並べてみるという側面があったからだ。
「いつ? そ、そうだなぁ~・・・」
そこまで言っておきながら、父親は考える風にする。
そして、少しの間を空けてから、改めて言葉を続けてくる。
「最終的にそう決断して、お爺ちゃんに申し出たのは農業高校3年になったときだった。」
「ええっ! 高校3年!?」
孝は自分の胸にグサリと何かが突き刺さるのを感じた。
そう、まさに、今の自分と同じ年齢だったからだ。
「ああ・・・、高校で進路を決めなければいけなくなったからな。大学に進学するのか、それとも就職を選択するのか。ま、もちろん、お父さんの場合は家業を継ぐって言う選択肢もあったんだが・・・。」
「そ、それで?」
孝は、意味不明な言葉しか投げれなかった。
(つづく)