第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その87)
「だからって、お爺ちゃん、お父さんの夢を頭ごなしに『そりゃあ駄目だ』とは言わなかった。
そうは言わなかったんだが、脆さ・危うさは覚えたそうだ。」
父親は、まるでそう言われた場面にタイムスリップしたような顔で言う。
「脆いってこと?」
孝は、自分の夢に対して言われたような気がして反発する。
「だから、夢が夢で終わる可能性が頭にあったってことだ。」
「ど、どうして? やってみなくちゃ分からないことじゃない?」
「う~ん・・・、そこが、夢の夢たる最大の理由だろう。」
「そ、そんなの、屁理屈だよ。」
「お父さんも、中学の頃までは、今の孝と同じだった。
好きな道、やりたいことを目指して何が悪い!
そう思ってたからな。」
「で、でしょう!」
「だけど、お爺ちゃんは現実を踏まえて考えてたんだ。」
「お金の問題? そんな学校にはやれないって?!」
「い、いや、そう言うんじゃなくって・・・。」
「だ、だったら・・・。」
「今でもそうなんだが、日本の飛行機産業は世界から遅れを取ってる。
自動車・船・家電・・・。そうしたいわゆる製造業の分野では世界トップクラスなのに、飛行機だけはまったく駄目。
新幹線を作る技術力があるのに、飛行機だけは作れていない。
そうだろ?」
「・・・・・・。」
孝もそのことについては否定できない。事実だからだ。
「それは、日本にそうした技術力がないからではなくって、アメリカの意向が強く作用してる結果なんだ。」
「ん? アメリカ?」
「日本に飛行機を作らせないように政治的な圧力を掛けてきたんだ。」
「そ、そんなぁ~・・・。」
「腹が立つが、それが現実なんだ。その最大の原因が戦争に負けたことなんだ。
少なくとも、お爺ちゃんはそう理解をしていた。」
「・・・・・・。」
「だから、いくら飛行機の設計が出来ても、それを日本で生かせる環境がない。
だから、どうしたって夢は夢で終わるって・・・。」
父親は、そう言って、下唇を噛んだ。
(つづく)