表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/187

第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その86)

「だから、ふたりのお兄さん、お墓にはその名前が刻まれているんだが、遺骨は入っていないんだ。骨どころか、遺品ひとつ戻らなかったらしい。

お爺ちゃん、戦後に何度も役場に行って、ふたりがどこで死んだのかを調べようとしたらしいんだが、とうとう分からないままだったって・・・。」

静かな口調で父親はそう説明をしてくる。


「・・・・・・。」

孝に言える言葉はなかった。

余りにも突然の話だったし、その当時のことは、孝の中では既に歴史のひとつとしてしか認識できなくなっていたからでもある。



「終戦時、お爺ちゃんは予科練にいたらしい。」

「『よかれん』って?」

孝は、地名なのかと思った。四国にありそうな気がした。


「正式には『飛行予科練習生』と言ってな、ま、一口で言えば、兵隊の養成所のようなところだ。

お爺ちゃんがいたのは海軍の予科練で、飛行機乗り、つまりは戦闘機のパイロットを養成するところだった。志願して行ったらしい。」

「・・・・・・。」

「ところが、もう戦争末期だったから、まともに飛べる飛行機もなかったそうだ。

で、お爺ちゃんは一度も飛行機で空を飛んではいなかったんだ。憧れだったのにな。」

「・・・・・・。」

「だから、もう少しお爺ちゃんが早くに生まれていたら空を飛べたかも知れんのだが、と同時に、先輩同様に特攻機で死んでいたかも知れんのだ・・・。」

「ええっっ! と、とっこうって、あの特攻?」

孝も、その言葉だけは知っていた。自分の命を捨ててでも、敵の軍艦なりを沈めるっていう無茶苦茶な体当たり戦法である。まさか入学試験に出るようなことではないのだろうが・・・。


「ああ・・・、2年先輩だと、何人かが特攻機に載ったらしいからな。それこそ、紙一重だ。

そうなっておれば、つまりはお爺ちゃんが特攻機にでも載っていたとしたら、お父さんも、そして孝も、この世には生まれなかったってことになる。

血のつながりってのは、そういうものだ。」

「・・・・・・。」



「そんな経験があったお爺ちゃんだ。お父さんが飛行機に関心を持ったことを快くは思えなかったんだ。その気持ちは分かるだろ?」

「・・・。」

孝は、まともに返事も出来なかった。ただ、小さく何度か頷くだけになる。



(つづく)




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ