第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その85)
「そ、そんなぁ・・・。」
孝はそれに続く言葉を知らなかった。
もし、今、父親が言った祖父の夢と理想の話が本当だとしたら・・・。
「なんて小さい夢だったんだろう」と思う反面、「そのための努力」の凄さを改めて思い知ったようにも思える。
「お爺ちゃんだって、若いときには壮大な夢があったらしい。」
そうした孝の思いを感じたのか、父親は新たな話題を持ち出してくる。
(ん? や、やっぱり? そ、そうだろうなぁ~・・・。)
孝は、祖父にも夢があったと聞いてほっとする自分を感じた。
「海軍の将校になるってな。」
「ええっ! か、海軍って?」
「お爺ちゃんの青春時代ってのは、まさに戦争の時代だ。当時の男の子の大部分は軍人か政治家を目指したらしい。」
「・・・・・・。」
「お爺ちゃんは三男坊だった。つまりは、お兄さんがふたりいた。」
「ええっ・・・、そ、そうだったんだ・・・。初めて聞いた。」
「お爺ちゃん、昔のことは話したがらないからなぁ。
ま、それで、長男さんがここの家業を継いで、次男・三男はいずれは独立していくってのが当時の常識だったんだ。
つまりは、子供の頃から、将来は独立して家を出なければいけないっていう責任を持たされてたんだな。」
「だ、だからって何も軍人を目指さなくっても・・・。」
「それは、今の平和な、いや、平和すぎる日本にいるから言えるのであって、当時は軍人は花形的存在だったんだ。
今で言えば、国立大学を出て大蔵省や外務省に入るのと同じで、それこそエリートの国家公務員だったんだからな。」
「エ、エリート!?」
「ああ・・・、誰しもが憧れたものだったらしい。」
「・・・・・・。」
「で、でもな・・・。」
「ん?」
「日本は戦争に負けただろ?」
「う、うん・・・。」
「その戦争で、海軍にいた次男さんは戦死。長男さんも、戦争終盤の昭和19年末に徴兵されて、南方で行方知れずになったんだ・・・。」
「・・・・・・。」
孝は、言葉が出なかった。
歴史の1ページとしか感じていなかった第2次世界大戦が、こんな身近にも存在していたことに衝撃を覚えたからだ。
(つづく)