第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その83)
「そうしたいろんな災害・苦難を乗り越えて、ご先祖様は我々にこの地を残してくれたんだ。だから、感謝こそすれ、農家という立場、農業という職業を毛嫌いしたら罰が当たるってのがお爺ちゃんの口癖だ。」
父親はまたまた祖父の言葉を引用してくる。
「だ、だから、お父さんも、この果樹園を継ぐ気になったの?」
孝は、そう言ってしまってから、慌てて口を手で押さえた。
あまりに直接的な質問で、かつ過激なことを訊いていると後悔をしたからだった。
もちろん、今更取り消せないとは思うのだが・・・。
「う~ん・・・、ど、どうなんだろうな?」
父親は驚いたような顔を見せたものの、息子の質問に直接答えることはしなかった。
孝は、本音を言えば、現在の家業、つまりは果樹園業が嫌いだった。大嫌いだった。
「どうしてうちは果樹園業なんかしてるんだ、どうして普通のサラリーマンじゃあないんだ・・・」って何度も思った。
土日もなければ、休日だってない。夏休みだって、家にいるのは自分と妹だけだった。だから、両親とどこかに出掛けた記憶すらない。遊んでもらった覚えもない。
第一、恰好も悪い。どうして農作業の服はあんなにダサいのかって思う。
もちろん、そんな嫌いな家業を継ぐ気は毛頭ない。
育ててもらったことには感謝をしなければいけないとは思っているものの、それもあくまでも「一般論」としてである。
「頼んで産んでもらったのではない」という気持ちが常にどこかにあった。
大人になれば、自分の意思で生きて行ける。
憲法にも「職業選択の自由」ってのが保障されている。家業を継がなければいけないとはどこにも書かれていない。
俺は、大学を出て、一流の会社に勤めるんだ。そして、都会に出て、安定した給料を貰って、生活をエンジョイするんだ。
それまでの辛抱だ。もう数年の辛抱だ。
そう思っていた。
だからこその受験勉強である。
「そうだな。さっきも言ったが、お父さんも若かりし頃は飛行機の製造、いや、さらに厳密に言えば飛行機の設計をしたかったんだ。
だから、飛行機の構造については非常に関心があった。」
「そ、それでなんでしょう? ラジコン飛行機が欲しかったのは・・・。」
孝は、父親が激怒しなかったことにほっとした気持ちがあってそう受ける。
(つづく)