第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その82)
「そうして郷土史を読み解くことで、この地域の過去にどんなことがあったのか。どんなことがあって、それをどのようにして乗り越えてきたのか。そうしたことが分かってくる。
お爺ちゃんはそう言ってた。」
父親は、あくまでも祖父の見解だと説明をする。
「・・・・・・。」
孝は、それには答えないで、また適当なページに指を入れる。
「ああっ・・・。」
「ん?」
父親がまた孝の手元を覗き込む。
「これって、地図?」
孝は、たまたま開いた資料のページに、山だとか、川だとか、村だとかの名前が入った図を見つけた。
現代ではとても地図とは言えないものだが、それでも、山と川の位置関係やその川に沿うように点在した村の名前が明記されている以上、当時は地図として活用されていた資料ではないかと直感的に思ったのだ。
「う~ん・・、地図って言うより、見取り図って言うほうが近いんだろうな。
それは安土桃山時代前期の頃のものらしい。と、言うことは、まだ地図を作れるだけの技術はなかったってことだし・・・。」
「み、見取り図?」
「ほ、ほら、それを描いた視点を考えると、高い山のてっぺんからこの地域を見下ろしたもののように捉えられるだろ?」
「ああ・・・、な、なるほど・・・。そう言われれば・・・。」
「だから、それは、この地方を治めていた時の領主が作ったものじゃあなくって、隣国、つまりはこの地域に攻め込んで支配しようとした敵国が作ったものなんだ。」
「えっ! 敵国が?」
「ああ・・・、そうらしい。だから、一部の村の名前や地名が他の資料と異なっているものもあるそうだ。
まぁ、これもお爺ちゃんからの請け売りなんだが・・・。」
「へぇ~・・・、お父さんも、結構詳しいじゃない?」
孝は、祖父からの請け売りだとしても、たまたま開いた資料の説明が出来る父親を見直す気持ちになっていた。
「だから、昔のお百姓さんってのは、今と比べ物にならないだけの苦労があったんだな。」
「ん?」
「自然との闘いだけじゃなくって、そうした人間が起こす戦争って言う災害とも戦わなくっちゃいけなかったんだから・・・。」
「ああ、そ、そうか・・・。」
孝は、この部分だけは、祖父の請け売りではなく、父親自らの意見が強く反映されているように受け止めた。
(つづく)