第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その77)
父親が振り返る。
どうやら、自分の後ろ側に掛かっている柱時計を見たらしい。
孝もそれに釣られて時間を確認する。既に午後9時半を回っていた。
「・・・・・・。」
父親は、無言でまたお茶を飲む。そして、目を合わさないままに孝の気配を探ってくる。
「・・・・・・。」
孝もまた、時間を確認したものの、「じゃあ、そろそろ上がるわ」と席を立つことはしなかった。
「ん? じゃあ、珈琲でも飲むか?」
そう言って、父親が腰を浮かせる。
「あっ、いいよ、僕が入れる。」
孝が父親の動きを制するようにして言う。そして、そのままキッチンへと歩いていく。
「さっき、お爺ちゃん、非科学的だって話したろ?」
キッチンと食卓、その距離があるにもかかわらず、父親はそう話し始める。
さすがに、今度は孝のほうを向いてだが・・・。
「う、うん・・・。」
孝も、短くそう答える。聞こえていますという返事でもある。
「他人にはそう見えるんだが、実際はそうでもないんだ。」
「どういうこと?」
「お父さんもその中身までは見せてもらったことがないんだが、お爺ちゃん、日記をつけてるんだ。」
「ん? 日記?」
孝は、小学生時代の夏休みを思い出す。そう、宿題で、日記を書かされていた。
「もちろん、普通の日記じゃあない。農作業の日記だ。作業日報と言ったほうが正しいのかもしれんが・・・。」
「作業日報?」
そう言い換えられても、孝にはイメージが沸かない。せいぜい学校で書く「当番日誌」程度だ。
「今日はどんな作業をしたかなどが書かれているらしいんだが、その余白には、天候や気温・湿度などの細かいデータが書き込まれているんだ。しかもだ、日に何度もだ。
例えば、朝の9時、12時、2時、4時・・・というようにだ・・・。
外気温もそうだが、それと同じ項目をビニールハウスの中でも測定してるらしい。
しかも、全部のビニールハウスでだ・・・。」
「ええっ! そ、それは大変・・・。」
「そう思うよな。何も、そこまでしなくっても・・・って・・・。」
「・・・・・・。」
もちろん、孝に答えられる筈はない。
(つづく)