第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その76)
祖父は、はっきり言って無口だ。必要最小限の言葉しか発しない。
昔ながらの親父像を象徴する「風呂・飯・寝る」とまでは行かなくっても、孝の印象からすればほぼそれに近い感覚があった。
そんな祖父が「自然と会話が出来る」と父親は言うのだが、孝にすれば「自然とは会話が出来る」の間違いではないかと思えたのだ。
それだけ、祖父は「会話」という言葉が似合わない存在だった。
「うふふふ・・・。何か文句が言いたそうだな。」
そんな孝の心音を感じたのだろう。父親は笑みを浮かべながらそう言ってくる。
「い、いや・・・、別に・・・。」
孝は父親に返せる言葉を知らない。
「会話ってのは、何も口だけでするもんじゃあない。」
「ん?」
「ほら、昔から言うだろ? 『目は口ほどにものを言い』って・・・。
だからって、お化けじゃああるまいし、本当に目がしゃべったりはしない。
それでも、人の目ってのはその人の意思を表現できるし、その目を見た人がその意思を汲取れるってことだ。
今風に言えば、『アイ・コンタクト』ってことだ。」
「ア、アイ・コンタクト!?」
孝は、父親の口からそんな言葉が飛び出してくるとは思わなかった。
「孝にも経験があるのだと思うが、学校で、先生とたまたま視線が遭ったために指名されたってこと・・・。」
「・・・・・・。」
応えはしないが、孝にもそうした経験は確かにあった。
「あれも、ひとつの会話だ。目による、視線による会話だ。
『誰か、この問題を解ける奴はいないか?』と先生が教室内を探す。そのために、ほぼ全員に視線を投げるんだ。
で、答えられると思う子は、その先生の視線に自分の視線をぶっつける。つまりは、『はい、僕は答えられますよ』っていう意思表示だ。
で、それに気がついた先生がその子を指名する。
違うか?」
「う、う~ん・・・、ま、そうだけど・・・。」
「だろ? 孝は、それも非科学的だって否定するか?」
「・・・・・・。」
孝は答えられない。
「それと同じで、お爺ちゃんは、空の色や風の向き、温度や湿度、さらには、今さっき言ったようなムクドリやフナなどの生き物の状況を感じながら、そうした自然の世界が発してくるいろんな情報を全身で受け止めてるんだ。
それこそ、学校の教室で、先生が言葉を使わなくっても生徒達と会話が出来ているのと同じなんだ。
少なくとも、お父さんはそう思う。」
父親は、孝の目を見ながら、その最後の言葉を静かに置いてくる。
(つづく)