第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その75)
「ああ、きっとそうなんだろうと思う。」
父親も孝の意見に同調する。
「夕焼けの色と、ムクドリとフナがいる・いない、それだけで?」
自分の意見に同調されても、孝としてはたったそれだけのことで嵐が来るなどと断定できないのではないかと思う。いや、信じられないのだ。
「も、もちろん、それだけじゃあなかった。お父さんがムクドリやフナを見に行っている間に、お爺ちゃん、果樹園の土を掘り返していた。どうやら、ミミズなんかを探していたらしい。」
「えっ! ミミズ? ど、どうして?」
「さあ、どうしてなんだろうな。お父さんにも分からなかった。
でも、昔から言うだろ? 沈む船からはネズミがいなくなるって・・・。それと同じなんだろう。つまりは、生き物ってのは、危機を予測する能力を持ってるってことなんだ。
だから、お爺ちゃんは、そうしたいろいろな周囲の状況、つまりは、ムクドリやフナやミミズの行動、夕焼けに代表される空の様子、肌で感じる風や湿度、そうしたいつもと違うことを拾い集めてきて、それを総合的にみて嵐が来るって確信したんだ。」
「そ、そんな非科学的な・・・。」
孝は、そこに答えの拠り所を求める。
「ああ・・・、確かに科学的じゃあない。それは確かだ。だからこそ、お爺ちゃんも、自分の家では嵐に対する対策をとっても、近隣に『嵐が来ます』とは言えなかったんだ。」
「で、でしょう?」
「それでも、お爺ちゃんは自分の信じる道を選択したんだ。お父さんやお婆ちゃんに手伝わせて、夜遅くまでビニールハウスの補強をやった。で、その結果として、うちの果樹園だけが軽微な損失で済ませることが出来たんだ。」
「・・・・・・。」
「結果オーライだった。そう言ってしまえばそれで終わりだ。
つまりは、お爺ちゃんの勘がたまたま当たったんだってことにすれば・・・。」
「・・・・・・。」
「でもな、お父さんは、その意見に賛成できなかった。
ひとりで留守番をしていて、あの夜の雷を伴った猛烈な嵐を経験してみて、改めて人間は自然の中で生きてるんだ、いや、生かされているんだって実感したんだ。
で、そうした自然と会話が出来るお爺ちゃんって凄いって思ったんだ。」
「か、会話?」
孝は、その言葉にどきっとするものを感じた。
(つづく)