第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その74)
「今、お爺ちゃんの勘だと言ったが、お爺ちゃんには、嵐が来てこのままだとビニールハウスの全部を持って行かれるっていう危機感があったんだそうだ。
そうなれば、膨大な損失が出て、その後にどんなに頑張ったとしても到底それを埋めることは出来ない。つまりは、一家が食べていくことすら難しくなるってな。だから、何としてでも、そうした被害が出ないようにしなければいけないって思ったんだそうだ。
じゃあ、どうして嵐が来るって分かったのかと訊くと、まずは夕焼けの色が変だと思ったんだそうだ。」
父親は、そのときの祖父の様子を真似しているのか、天井を見上げるようにしながら言ってくる。空を見上げたときの姿勢なのだろう。
「ゆ、夕焼けの色?」
孝にはその意味が分からない。
確かに、一口で「夕焼け」と言ってもいろいろとある。まさに千差万別だろう。
だから、その色が変だと言われても、どの色がまともで、どんな色であれば変だと言えるのかまったく分からない。
「ああ・・・、お父さんも見た夕焼けだったが、お父さんは特に変だとは思わなかった。それなのに、お爺ちゃんはその夕焼けの色が変だと思ったんだそうだ。
で、それに気がついてから、お父さんに『ムクドリがたくさんいるかどうかを見てきてくれ』って言ったんだ。」
「ムクドリ?」
「ああ・・・、果樹園の山手側に、ムクドリがねぐらにしている木が何本かあってな。その木にムクドリが集まっているかどうかを見てきてくれって・・・。」
「どう関係あるの?」
「さあ? どう関係するんだろうな? お父さん、そのときは分からなかった。
でもな、不思議なことに、その日はムクドリがいなかったんだ。いつもならば、1本の木に何百という数が集まってて、ギャアギャアと煩いんだが・・・。」
「そ、それで?」
「お爺ちゃんにいないよって伝えると、今度は『ため池に行ってフナがいるかどうかを見てきてくれ』って・・・。」
「ん? ど、どういうこと?」
「その言葉どおりだ。だから、お父さん、言われるままにため池にフナを見に行ったんだ。まぁ、そのときはフナの姿は見えなかったんだが・・・。」
「わ、訳が分からん・・・。」
孝はとうとう匙を投げる。
「で、『フナ、いないみたい・・・』って報告すると、お爺ちゃん、『ご苦労さん、よく分かった』って言ったんだ。
で、それからすぐだった。家に帰って、お婆ちゃんを呼んでくるように言われたのは・・・。」
「ん? そのときにはもう、お爺ちゃん、嵐が来るって分かってたってこと?」
孝も、その事実だけは何となく分かった。
(つづく)